02. COFFEE AND MUSIC


DJ Desert / Ministry


 ある日、コーヒーで一息入れようとdAb COFFEE STOREに立ち寄った時、カウンターに置いてあったDJ Desertの「Ministry」Release Partyのフライヤーが目に留まった。店主の大地くんが「彼は近所に住んでいて、よくお店に来てくれるんですよ。自分で曲も作っていて、今度うちでイベントやることになったんです」と教えてくれた。あいにく都合が悪くて、そのイベントには行けなかったが、DJ Desertが作ったアルバム「Ministry」をYouTubeで聴くことができた。スピリチュアルでスペーシー、聴いていて心地よく、純粋にカッコイイと思った。ハウスやテクノとは長い間ご無沙汰の私だが、20年くらい前に好きでよく聴いていたNYを中心とするディープ・ハウスを思い出した。DJ Desertの作る曲は当時聴いていた世界で活躍する人たちの作る曲と遜色ない。DJ DesertとdAb COFFEE STOREで待ち合わせし、音楽のことや「Ministry」の制作について話をうかがった。

__音楽が好きになったきっかけは?

DJ Desert(以下D) 僕、今31歳なんですけど、4つ上に兄がいるんです。中学生の頃、兄が聴いていたビートルズやローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリンなどの古い洋楽を真似して聴いていたんですが、高校生になると古い音楽よりも新譜の方が自分の好みに合うと思うようになって、同世代くらいの音楽を聴くようになりました。

__高校生の時はどんな音楽を聴いていたんですか?

D 僕が高校生だった2000年代にUKインディーブームがあって、ロックンロールやガレージの影響を受けた若い人たちが、自分たちの解釈で作った曲を今の時代にバーンと出して来たんです。ロックンロール・リバイバルとかガレージ・リバイバルとか当時は言われていましたね。ストロークスやリバティーンズとかを聴いていました。

__何か楽器はやっていたんですか?

D 兄がギターをやっていて、真似して僕もギターをやっていました。10代後半から20代半ば頃までバンドをやっていたんです。

__UKインディーなバンド?

D そうですね。歌もので、僕がギターとボーカルで、他にドラム、ベース、シンセがいたりして。

__曲を作り始めたのはいつ頃?

D バンド時代から曲を作っていました。18歳とか19歳頃なので12・3年前ですね。ライブやったり音源作ったり、あとアートワークを集めたZINEも作ったりしていたんです。古い音楽だとザ・スミスやジーザス&メリーチェイン、80年代のニューウェーブなどは影響を受けました。

__DJを始めたきっかけは?

D DJをやり始めたのは20代前半、2010年頃からです。自分からという訳ではなくて、人から誘われてDJをやっていたという感じです。DJをやるようになってからエレクトロニック・ミュージックに興味を持つようになったんです。ちょうどその頃バンドが解散したりして、音楽作りたいからシンセサイザーを買ったりして。

__好きだったのはUKインディーロックだったのに、どうしてハウスやテクノの「Ministry」が生まれたのか不思議です。

D 新譜のレコードは好きでずっと買っていました。2010年頃からNYでアンソニー・ネイプルズを中心とした新しいハウスやエレクトロニックのシーンが生まれて、僕も興味を持つようになり、そういう曲を聴いたり作るようになったんです。ちょっと前の印象だと、バンドの人はバンド、ダンスの人はダンスと言った具合にジャンル毎に曲が分かれていたんですが、2010年頃からインディーロックが好きな僕でも聴けるような面白いエレクトロニックが出始めた時代だったんです。また、その頃にシンセを買ったというのも影響あると思います。

__Ministryは初めて作ったアルバム?

D カセットテープを作ってライブ会場で無料配布はしていましたが、ちゃんと人に売ろうとして作ったのは初めてです。

__アルバムを作り始める前からイメージはありましたか?それとも曲作りが先行?

D 先にイメージはありました。スペーシーさやハウスっぽさ、それから少し変な感じを入れたかったんです。

__1曲目のWearingはスピリチュアルな感じがします。

D 曲を作っている最中に始まりにふさわしい曲が欲しくなって作った曲です。このアルバムを作る時に新しいシンセを買ったんです。これは良いなと思った音を作って、ひたすら録音して、その中から始まりにふさわしい音を選んで作っていきました。

__2曲目のTimelessは浮遊感がありますね。後半は少しダンサブルな展開になっています。

D ハウスっぽい曲を作りたかったんです。ストレートなハウスというよりはメランコリックな感じが好きなので、ゆっくり目な感じを意識しました。ダンスの12inchも好きで買うんですが、キラー曲だけの12inchを聴くよりもアルバム全体を楽しむのが好きなんです。アルバムの場合、初めは気づかなかったけれど、4回くらい聴くとその曲の良さに気づくことがあるんです。このアルバムは全体を通して聴いてもらえるように作りました。

__3曲目のCSはスペーシーですね。

D いい感じのビートが作れたんで生かそうと思ったんです。アシッドぽいシンセやディープ・ハウスっぽいシンセを入れてみました。ただアシッドはあまり好きではないのでアシッドを出しすぎないようにしました。

__4曲目のPeepは音使いが面白いですね。

D ダビーなベースが気にいっています。ベースラインが先にできたんです。潰れた感じのベースというか。アフリカンや南米の音楽も好きで、そういうリズムを入れたいなと思いましたが、あまり、アフリカンや南米風にはならなかった気がします。

__アフリカンなども聴くんですか?

D 新譜をずっと追って行くと、エレクトロニックの中でアフリカンなどのリズムを取り入れていている人が出て来て、面白いなと思ったんです。バリのガムランのミックスばかりを一時期聴いたりもしていて、曲作りにそういう影響も出ていると思います。

__5曲目のLouis BellはMVも作ったんですね。

D もともと作品を作るにあたりビデオを作りたいと思っていました。大地くんに相談したら友人のGuy Buyboさんを紹介してくれて、音源を渡して作ってもらうことにしたんです。アジア感のある映像がいいですと伝えてあって。Guy Buyboさんが、たまたま別の仕事で台湾に行くことがあって、その時に撮ってきた映像で作ってもらいました。曲は最初4つ打ちでBPMが早くてシンセを変な感じでって目指してたんですが、アゲアゲすぎてやだなと思って、ビートを変えてブレイクビーツっぽくしました。ビートよりも上物のシンセが面白いと思って、そういう音が録れたなと思います。90年代に流行ったジャングルが今リバイバルしているんですが、新しいフィルターを通して曲を作りたいと思いました。今のジャングルを目指して作った曲です。

__6曲目のAfro Trapはフェラ・クティのようなアフロビートを想像していましたが、想像とは違った面白いビートですね。

D ベースラインが最初にできました。もともと僕、インディー畑というかロック畑の人なので、マンチェスターブームがあって、ストーン・ローゼズとかハッピー・マンデーズとか、ああいうダンスっぽいロックとか、ああいうウネウネしたベースが好きで作ったんです。ビートは、レゲエやレゲトン、ラヴァーズとかのビートとかメロディの流れがあって、そういうのを真似したいと思って作ったんです。新しい音選びをしたいと思いました。

__Ministryの音源を海外にも送ったりしていたそうですね。

D 個人的に売ったりはしています。今も新しい音源を作っています。洋楽とかが好きなので海外のレーベルが出してくれたら嬉しいなと思って音源を送ったりしています。

__今後について教えてください。

D アルバムを作りたいですね。今聴いている音楽がMinistryを作っていた頃に聴いていた音楽と違って来ていて、次に出すアルバムはMinistryとは違う感じで出せると思います。

__今、どんな音楽に興味があるんですか?

D バンドだと、UKで2000年代にバンドが盛り上がったんですが、2010年になると下火になったんですね。それが2010年後半に再びバンドが盛り上がって来ていて。ちょっとジャズを取り入れ始めたバンドとか出始めていて。エレクトロニックでもUKが熱いですね。ハウスというよりは少し下品な感じのダブやダンスホールとかを今の感じでやっている人たちが出始めていて、そういう曲を聴いています。

__本当に新しい音に興味が尽きないみたいですね。次のアルバムが楽しみです。最後に、COFFEE AND MUSICなだけに好きなコーヒーを教えてください。

D ホットのラテが好きです。目覚めの一杯なのも好きですが、どちらかというと制作の合間とか、レコード聴いてゆっくりしたいとか、誰かと喋りたい時にのむラテが好きですね。


※ 撮影協力:dAb COFFEE STORE

DJ Desert ぼくのイマコレBest10

1. Sally Anne Morgan

Black Twig PickersやHouse and Landのフィドル奏者として活動する彼女は今年ヴォーカリストとしてファーストソロアルバムをリリース予定。フォークやカントリーを基調とした、牧歌的で美しいサウンドが魅力。

2. Caroline Polachek

Chairliftのヴォーカルとして2010年代を牽引してきたCaroline Polachek。Chairlift時代の楽曲をよりアートに、モダンに昇華させ、唯一無二のポップソングを奏でている。

3. Jockstrap

数年前からネット上で話題となっていたロンドンのデュオが今年何とWarpとサイン。クラシカルなポップにエレクトロニックをぶち込んだ今のロンドンを象徴するような2人。

4. Perfume Genius

説明不要USインディの雄、Perfume Geniusが今年リリースした新作は本当に素晴らしかった。彼の魅力は何と言ってもその歌。曇りがかった音像に多幸感溢れる 歌を乗せる、珠玉のポップシンガー。

5. Primo!

オージーインディの星、Terryのメンバーも在籍するガールズインディバンド。ポストパンクやジャングリーの影響を受けながらも、オージーらしい牧歌的な雰囲気が他にはなかなか居ない存在。

6 . Pure X

2010年代を牽引した伝説的レーベルAcephale(現在は終了)からリリースして以来 Pure Xが今年6年ぶりの新作を発表した。カントリーからの影響をノイジーなサウンドに仕上げた、雄大なポップ。

7. DJ Python

Anthony Naplesと共にNYCダンスシーンを牽引するDJ Python。レゲトンビートにエイフェックスツインばりのディープなシンセを乗せる、ディープレゲトンと呼ばれるスタイルを最初に始めた人。

8. Mope Grooves

ポートランドのインディバンド Mope Grooves。情報が少なく一聴すると良くある80’sインディサウンド?と言った雰囲気だが、少し風変わりなメロディとジャンクなシンセ使いが凡百のインディバンドとセンスの違いを示す今後も注目のバンド。

9. Crack Cloud

2010年代に登場したアイスエイジ以降の影響を受け、カナダで生まれたポストパンクバンド。アイスエイジが築いたそれにオルタナティブな感覚を盛り込み、アートとして鳴らす滅茶苦茶格好いいバンド。

10. DJ Marcelle/Another Nice Mess

非常にジャンクな音とマシンビートが押し寄せ、ダブのようにもパンクのようにも聞こえるダンス界隈の中では異色の存在感を示す人。退屈な商業ダンスに嫌気が差した人は、 是非。

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