BIRTH OF THE COOL

Yuta Hikino


 バブルが弾けた90年代初めに東京の裏原宿ではGOOD ENOUGHやA BATHING APE、UNDER COVERが立ち上げられ、日本のみならず世界中から注目されるようになった。コロナ禍の現在はどうだろう。バブル崩壊後とは些か状況は違うかもしれないが、コロナ禍でも私たちは面白いことや楽しいこと、素晴らしいことを考えだし、発信している。バブル崩壊後のような大きな何かが誕生するかはわからないが、発信している限り、可能性はゼロではないと思う。“BIRTH OF THE COOL”ではこれからが楽しみな期待の新星、Yuta Hikinoに話を伺った。


新しいものを生みだす、オルタナティブなものづくり。



Sculpture-Plants:伸びない生地で作ったテープ状のものを編んで作ったニットワンピース。

天然エコファー付け袖:天然植物のネコジャラシをファーに見立てて作った服。

14インチPCケース(アウター付き):PCケースが主役のジャケット。

刺繍コート付き鼻ポケット:鼻ポケットが主役の刺繍コート。鼻の形をしたポケットからティッシュが取り出せる。鼻炎の人や花粉症の人は重宝するだろう。

スマートウエア:両袖口にSuicaが入れられるようになっており、アップルウォッチのように決算可能なアトリエコート。

フットスタンプ(サンダル):サンダルの裏面にCOME HEREの文字が彫られている為、濡れた地面から乾いた地面に移る際、文字が浮かび上がる。居場所がすぐにばれてしまうサンダル。


 これらは四半世紀後の定番となるか。Yuta Hikinoのデザイナー、Hikinoさんが作り出す服は、舞台のコスチュームのような、またはアートとデイリーウエアが融合したような、巷で見かけないものばかりだ。フューチャリスティックであり、それでいて懐かしさやユーモアも感じる。綿やウールなど一般的な素材も使用しているが、メッシュや形状記憶型の素材など、あまり他所では見かけない素材を多用している。

「テクスチャーというか、素材の持つ表情をどれだけ服の形で表現できるかに挑戦しています。まずは表現としてチャレンジし、それが面白くできて、一般の人が着られるものであれば、その部分を切り取って服に落とし込んでいます」

 子供の頃から流行には興味がなく、服自体に興味があったというHikinoさん。原色にハマると原色ばかり着たり、柄ものにハマると柄ものばかりを着る。興味を持ったら、それ一辺倒。自分の好きな組み合わせや重ね具合など色々と研究していたそうだ。大学では婦人服を学んでいたが、興味があったのは、売っていないものを作ることだった。

「ファッションというよりは、こういうものとこういうものを組み合わせたらどうなるか、などに興味があり、実験みたいなことばかりしていました」

 Hikinoさんが月一で行っている「気まぐれな服屋」ではその時々でテーマを決めて服を発表している。ある時は「WAVE」、ある時は「モンスター」。WAVEは、ギャザーの研究をしていた時に思いついたテーマ。どういう風にギャザーが入ると、どんな風にシワが寄るのかをいくつものパターンで研究していた時に、波を形にしてみようと思ったそうだ。モンスターでは、わからない部分が沢山ある知らない相手こそが恐怖の対象、それこそがモンスターであるとの発想から、わからない部分を含んだ二面性を表現している。

 Hikinoさんが作品を作る時は、テーマを考えることもあれば、テクスチャーだけでない場合や、素材を見てから作り出すこともあり、その時々の閃きによりアプローチの仕方も変わる。アイディアの多くは日常の中から生まれる。デザインを描いてから製作に入ることもあるが、作品を作っている途中にアイディアが浮かび、そこから派生して作品を作っていくことも多いという。

「作りながら次のことを考えていると、見えているものがリアルなので、完成図が頭の中で想像しやすいんです。だからデザインから入るよりも作りやすいですね」

 作品作りは苦労の連続。一つの作品を仕上げるのに、試行錯誤を繰り返しながら3ヶ月かかることもある。デザインやアイディアを形にする際、自分が納得するかどうかを大切にしているからだ。完成した作品を見て、何かいいなと感じるものがあれば良しとしているが、どんなに手間暇かけて作ったものであっても、何かいいなと感じるものがなかった場合はボツにする。作品によって苦労の度合いも違うと思うが、作品が完成した時の感動はどの作品も同じくらいだという。それは、作品一つ一つに同じ思いで真剣に作られてきた証ではないだろうか。例えるならば、子育てのように、個性の違う子どもたちを同じ愛情で育てているというのだろうか。

 Hikinoさんが今興味があるのはテクノロジー。個人や少人数でやっている人にとって、テクノロジーはとても便利だという。Hikinoさんのアトリエはスマート家電が点在している。例えばエアコン。外出先から遠隔で起動・停止させたり、室内であれば声一つで起動・停止できるように全て自分で設定してしまう。テクノロジー好きの影響は、室内だけに留まらず、服にまで及んでいる。タッチレス決算がしやすいように改良されたスマートウエアを作ってみたり、刺繍コート付き鼻ポケットの鼻ポケットは3Dプリンター、フットスタンプ(サンダル)はレーザー加工機で製作するなどテクノロジーが取り入れられている。今後は自分で服を作らず、3Dプリンターに服を作ってもらいたいそうだ。近い未来、本当に服が3Dプリンターで作られる時代がくるかもしれない。

 常に新しいことに挑戦し続けているHikinoさんにファッションの魅力を伺ったところ「服はコミュニケーションの一つかなと思います」と語ってくれた。身につけている服から始まるコミュニケーション。Hikinoさんのいうコミュニケーションとは、決してブランドやトレンドの話題性について語られることを指しているのではなく、服そのもの、その服を着ている人自身について語られることを指している。メインストリームに流されることなく、自分自身の目で見て、考えること。Yuta Hikinoの服からは、そんなメッセージが伝わってくる。

0コメント

  • 1000 / 1000