05.ようこそCinecittàへ。

文 / にいがた映画塾 幹事 井上 朗子


西村昭五郎 監督

『競輪上人行状記(ケイリンショウニン ギョウジョウキ)


 この冊子を手に取り、このページをめくった方は、今どんな気分でいるのだろう。春の訪れとともになんとなく楽しいおしゃれな気分にいかにも、な作品か、予想を裏切るドギツい作品か、迷った上で後者に決めた。 

 1963年公開、小沢昭一主演作。

 高校教師をしていた青年春道が寺を継いでいた兄の死を知り、実家に戻る。父と兄嫁と兄の息子が残る実家の寺は、犬の葬儀で日銭を稼ぐ極貧状態。教え子のサチ子は義父の子を妊娠しており春道のほか頼る人がいない。以前より想いを寄せていた兄嫁は、子どもができない身体の兄に代わり父と関係して息子を産んだと告白する。昭和の貧しさ、女の悲運がありありと描かれる。

 ポイントは“競輪”で、父の裏切り、寺が人の手に渡るなど、絶望のたびに春道は競輪に走る。よくある話でビギナーズラックで大穴にはまったとはいえ、状況はどんどん泥沼化していく。

「教師としても中途半端」という父の言葉どおり、主人公は、教師でも僧侶でもない。色と金にまみれながらも、悪人でもなく聖人でもない。

 映画に関する情報は、メディアでもSNSでもいくらでもあふれているが、この作品は珍しく、何の情報もない状態でビデオ1赤道店で「ジャケ借り」した。人物の二面性を浮き彫りにした秀逸なストーリー、悲劇でありながら喜劇、先が読めないながらも最後は納得する展開にどはまりした。脚本を担当した今村昌平監督や、小沢昭一の怪演が光る川島雄三監督の作品の流れにある作品と思うが、後にロマンポルノ作品のエースとして活躍する西村監督らしい、ブ男小沢昭一の色っぽさ、兄嫁演じる南田洋子の妖艶な勁さが美しい。伊藤アイコの危うい純真さ、加藤嘉の矍鑠たる嫌らしさも印象深い。

 現実生活にあまりストレスを感じていない人は、まぁあまり映画にドギツさというのは求めないかもしれない。それはそれでよいことと思うが、春を迎えるあたたかい気分にグサッと釘さす昭和のリアルもまたオツなものなのではないかと思う。


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にいがた映画塾

1998年、新潟がロケ地となった映画「白痴」(手塚眞監督)の地元への浸透の一環が母体となってスタート。

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井上朗子

第2期にいがた映画塾受講。

「ダイアローグ1999」(2000/8ミリ/38分)にて第16回あきるの映画祭フィルムコンテストグランプリ受賞。

ながおか映画祭インディーズフィルムコンペティション審査員。新潟大学非常勤講師。

BLUE BIRD

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