カルチャーあ

TOSHINORI MUTO  /  ReRi Bagel


 新潟から何かを発信している人たちを紹介する「カルチャーあ」。何かを作りだす人たちは、いかなる時代や状況でも、作りたいものを作り、発信し続けている。それを素敵だなと思ったり、面白いな等と思う人たちが集まり、一部で始まった盛り上がりが徐々に広がって、時には大きなムーブメントを引き起こすこともある。本当に好きで真剣にやっている人たちほど面白いものはない。

 2020年に沼垂にあったBOOKS f3で、私は「see」(※1)と言うZINEに出合う。パラパラとページをめくりながら「なんかいいな、好きだな」と思った。その時はただ気に入って、誰の作品かをチェックせずに買って帰った。後にそのZINEはReRi Bagelの武藤俊徳さんとBOOKS f3の小倉快子さんによるサラダズが作ったものだと知る。dAb COFFEE STORE(以下、dAb)で気に入って買ったポストカードやボトルのイラストも武藤さんが手がけたものだった。度重なる偶然に、私は武藤さんの手がけたイラストが好きなんだと気づく。なぜ武藤さんの作品に惹かれるのか。その理由を探すべく、武藤さんに話を聞いた。


__武藤さんがイラストやグラフィックデザインを始めたきっかけを教えてください。

武藤俊徳(以下、武藤) 24・5歳の時に今までとは違うことをやってみたくてMacを買ったんです。最初は友だちのパーティーのフライヤーを作ったりしていました。グラフィックにちょっと興味があったりして。時代的に雑誌のrelax(※2)がリニューアルした頃で、relaxでは色々なアーティストが紹介されていたんです。掲載されていた作品を見ていて、結構いいな、自分でも作ってみたいなと思ってやり始めました。

__relaxは岡本仁さんが編集長をされていましたよね。面白かった。

武藤 まさにそのタイミング、2000年です。好きなアーティストもその頃からずっと変わっていません。

__誰が好きですか。

武藤 やっぱり僕が好きなのはずっとジェフ・マクフェトリッジ(※3)。今ちょうど東京で個展(※4)をやっていて、この前観に行ってきたんですよ。僕はジェフのことを20年くらいずっと好きで、僕が20代の頃と今とではジェフの作風はちょっと変わっているんですけど、基本的な感じは同じ。今は完全にファインアートみたいになっているんですけど、昔はもうちょっとグラフィック。ジェフはグラフィックデザイナーだと僕は思っていて、当時はこういうのがグラフィックデザインなんだと思っていました。

__武藤さんは初期の頃はどんな作品を作られていたのですか。

武藤 最初の頃は絵を描けなかったので、ネットから取ってきた画像をネタにしてサンプリングし、Photoshopで加工して作品を作っていました。イラストという感じではなかったです。

__今の絵のような、武藤さんらしいスタイルが確立されていったのはいつ頃ですか。

武藤 もうこの10年以内です。

__何かきっかけがあったのですか。

武藤 うーん、何でも描ける訳でもなかったので、唯一自分が描けるものが人だった、人を使って世界観を描くしかなかったのだと思います。

__2020年3月17日から3月22日にdAbで開催された個展「A CD SHOP」で、CDのアルバムジャケットを描いたペインティング作品が展示されていましたが、ドローイング作品と趣が違うと感じました。ペインティング作品はいつ頃描かれたのですか。

武藤 コロナの始まるちょっと前くらいです。いつも同じものしか描いてないから飽きちゃったというのもあって、違うものを描いてみようと思いました。絵の具で描くことはあまりないんですけど、昔のジャケをパパッと描いてInstagramにあげたら結構評判が良くて。dAbの大地くんに展示でもやりましょうよって話をもらって、やることになったんです。父親が他界したんですけど、もう長くなさそうだと言われていた頃で、過去を振り返るようなタイミングでもあり、ちょうど良いかなと思い、自分が10代の頃に聴いていたものを描きました。

__プライベートではどういう作品を描いているんですか。

武藤 一番わかりやすいのは沼垂にあったBOOKS f3の小倉さんと一緒に作ったZINE「see」に載っているイラストです。あれは「see」用に描いた訳ではなく、お互いの作品を持ち寄って、組み合わせただけなんです。

__すごい。あの作品は写真とイラストが繋がっているというか、関連性を持たせている構成ですよね。

武藤 あれば偶然です。

__予めテーマを決め、持ち寄った作品を見ながらタイトルを決めていったのですか。

武藤 小倉さんが打ち合わせをしている時に、僕の作品はだいたい後ろ姿なんですけど、毎回どれも何かを見ている感じがするって言って。see、lookじゃなくてseeという感じだよね、見るとも違う、見るともなく見るというか、目標が決まって見ている訳でもない、何となく見ている。それでseeというタイトルになったんです。そこだけ決めて、後は何も決めずに作品を持ち寄っただけ。テーブルにお互いの作品を並べて、パズルみたいに写真とイラストを合わせていっただけでなんです。

__作品に合わせて写真にペンを入れたり、写真をカットしたり、少しは加工しているかと思いましたが、本当にお互いの作品を組み合わせていっただけなんですね。

武藤 偶然なんです。そういうのが面白くて。これちょうど良い、奇跡的に合ったねっていう感じでした。BOOKS f3に関連性あるものを繋げていっている写真集が結構あったので、偶然あった、みたいなのをやりたいなっていうのは頭の片隅にあったのかもしれないですね。

__「see」の第二弾はないですか。

武藤 ないと思いますね。なかなかのエネルギーでしたし。本当はBOOKS f3がLA ART BOOK FAIRに出るにあたって、LAに持っていくために、こっそり作っていたものだったんです。自分も結構がんばったんですけど、コロナで開催が中止になっちゃったんです。なかなかそこまでのモチベーションは出せないですね。

__武藤さんご自身の作品集を作ってみようとかは考えていますか。

武藤 ZINEは昔は結構作っていて、TOKYO ART BOOK FAIRのZINE’S MATEに出したりしていました。今はたまに寝る前に描いたりするくらい。忙しい中でモチベーションをどこから持ってくるか、今は結構難しいところではあります。ZINEを作ることに対しても今はそんなに積極的に考えていないです。点数がまずないですから。3年くらい前にBOOKS f3のオンラインで販売した「STONE FRIENDS」(※5)という石だけのドローイングの作品集を作りました。

__石だけをドローイングですか。

武藤 早出川の石を拾ってきて、作品と同じパッケージの中に石も入れて、BOOKS f3のオンラインで販売してもらいました。

__イラストなど作品を作る上で影響を受けた人やモノ、コトなどがあれば教えてください。

武藤 本当に影響を受けているのはさっきも話に出たジェフ・マクフェトリッジ。

__ジェフの何に一番惹かれましたか。

武藤 ジェフはかっこいい作品をずっと作り続けている人。造形がもうかっこいい。それまで絵にそんなに興味がなかったんですよ。絵を観に行っても別にかっこいいと思うことはなかったんですけど、ジェフの作品は純粋にかっこいいなと思いました。なんだろう、これだと思ったというか、ときめいた。やっぱり一人だけあげるとしたらジェフですね。後は何ですかね。音楽とかずっと好きですし。

__何を聴くんですか。やっぱりHIP HOPですか。

武藤 元はダンスを頑張っていたんです。結構真剣にやっていて。NYへ行ったりもした。

__本当ですか。HIP HOPのダンスですか。

武藤 HIP HOPから入って、東京に出て、二十歳くらいの頃からはハウスミュージックのダンスなんですよね。

__ハウスミュージックのダンス?どんなダンスですか。

武藤 ハウスのダンスは細かいステップ中心の立ち踊りがあったり、フロアを使ってアクロバティックな動きをしたり、何でも取り入れることができる自由なダンスなんです。

__私もハウスが好きで、ビルボードプレイスにあったprahaに行ってたんですが、床で回転しながら踊っている人がいて、ずっとHIP HOPのダンスだと思っていました。

武藤 それは多分ハウスです。20代の頃は本当にハウスミュージックが好きでした。

__誰が好きでしたか。

武藤 めちゃくちゃベタなところで言えば、最初に衝撃を受けたNUYORICAN SOUL(※6)ですね。

__HIP HOPとハウスをミックスしてましたよね。

武藤 NUYORICAN SOUL名義でも活動しているMasters At Workのケニー・ドープ・ゴンザレスはHIP HOPをルーツにしていますからね。

__それにしても武藤さんがダンサーだったとは意外でした。新潟でも踊ったりしていたんですか。

武藤 10代の頃はずっと。高2から古町のクラブに行くようになって。

__古町のクラブって、どこに行っていたんですか。

武藤 僕が高校生の頃はクレオパラッチっていうクラブに行ってました。本当にダンサーしか行かないようなクラブで、みんなドレッドみたいな、普通の人はあまり来れないようなところ。

__普段でもドレッドの人は見かけないけれど、やっぱり夜にね。

武藤 そう、夜に出てくる。ダンスは中3の頃からやってたんですけど、クラブに行くようになったのはその位からですね。高1の終わり頃から、クラブっていうところに行かないとちゃんとダンスはできないんだと思って。

__何がきっかけだったのですか。

武藤 やっぱりダンス甲子園とか。あとZOOの人たちがやっていた「CLUB DADA」ていう番組の影響ですね。自分を形成する影響を受けたモノとなると、ジェフと音楽です。

__今後の予定があれば教えて下さい。

武藤 予定はないです。仕事もありがたいことにずっと忙しくて、なかなか絵を描く時間を作りにくいというのもあります。今後やらなければならないことは時間を確保することですね。

__描きためてきたものがたまってきたら何かやってみようとか。

武藤 まあ、そういう形でもいいですし、また個展やってくださいよと言ってくれる人もいるんで、いつになるかはわからないですが、やれたらないいなと思っています。

__楽しみにしています!

(※取材は5月14日に行われました)

上:※1「see」2020 Drawing Toshinori Muto / Photo Yasuko Ogawa

中:※2「relax」マガジンハウスより1996年に創刊され、2006月9月号をもって休刊したカルチャー誌。NO.51と116のcover artworkはジェフ・マクフェトリッジ。

※3 ジェフ・マクフェトリッジは映画「ヴァージン・スーサイズ」やアップルウォッチの文字盤デザインを手がけたことで知られるロサンゼルスを拠点に活動するアーティスト・デザイナー。

※4 2023年4月21日から5月13日まで東京・表参道のGALLERY TARGETでジェフ・マクフェトリッジの展覧会「BELIFE IN SPRING(ASLEEP UNDER ICE)」が開催された。

下左:※5「STONE FRIENDS」2020 Drawing Toshinori Muto

下右:※6 「NUYORICAN SOUL」Masters At Workのリトル・ルイ・ヴェガとケニー・ドープ・ゴンザレスによるプロジェクト。1997年にアルバムをリリース。


ReRi Bagel リリベーグル


酵母から手作り。丁寧な手仕事が生みだす、温もりを感じるベーグル。


 「カルチャーあ」で紹介した武藤俊徳さんの表の顔はベーグル職人。奥様の杏里さんと一緒に五泉市の市役所近くで「ReRi Bagel」というベーグル屋を営んでいる。創業は2014年4月。自家製酵母でつくられたベーグルが評判だ。

 俊徳さんと杏里さんには「自分で作れるところは全部自分で作りたい」という共通の思いがある。店を始めるきっかけは、杏里さんのパン教室通いだった。杏里さんがパン教室に通おうと思ったのは、酵母に興味があったから。イースト菌を使わずに自分で酵母を起こすことができる、その面白さにパン作りにはまっていったと言う。酵母について杏里さんは「簡単にはできないところが面白い」と話す。酵母は季節や天候など環境に左右されるため失敗することも少なくない。レーズンから酵母を起こし、その酵母に小麦粉を混ぜて種を作り、その種を元に生地を作る。全行程を経てベーグルが完成するまでに約10日間。時時刻刻変化する生きている酵母が相手だからこそ面白いのだろう。

 ReRi Bagelのベーグルは、毎日食卓に上がってもいいと思えるほど飽きがこない、ほっとする優しい味わいだ。美味しさの秘密を尋ねたところ、「特に意識していることはないです。こういう方が売れるという視点もあまりない。基本的には自分たちが食べたくないものは作りたくないので、食べて旨いなと感じるものだけを作っています」と話す俊徳さん。

 市場に卸せない規格外品が多い農産物。ReRi Bagelでは近隣の農家から仕入れた規格外の作物を加工して使用。また、新潟市東区にある旬果甘味店ルコトからも規格外の枝豆を福祉事業所で加工したものを仕入れて使用している。近隣の農家の作物を扱うことで農家を応援したいという思いや、自分たちだけでなく買い手にも生産者の顔が見えた方が良いとの思いがある。できるだけ、どこの農家が作ったものを使用しているかを買い手に伝えるよう心がけているのだそう。

 五泉市は俊徳さんの地元でもあるが、長く地元を離れて暮らしていた為、戻ってきた時は友人も少なかった。良いものを作って店に置けば、友人や地域に関係なく、良いなと思った人が買いに来てくれるだろうと考えていた。開店当初は地元よりも遠方からのお客が多かったが、イベント出店や口コミにより徐々に地元のお客が増えていったと言う。店を始めるまではパン屋や接客業に携わったことがなかったという俊徳さんと杏里さん。初めの頃は緊張のあまり、コミュニケーションは疎か、お客と目を合わせることもなかなかできなかったそう。店を長く続けていく中で「お客さまのお顔や、いつも買って行ってくれる商品を覚えられるようになって、コミュニケーションが取れるようになったことが嬉しい」と話す杏里さん。俊徳さんは「最近は自分たちにゆとりがでてきたこともあり、お客さまから気軽に話しかけてくることが増えてきて、コミュニケーションも良くなってきたなと感じますね。そういうことも小さな店だからできること。作っている人と言っている人が同じっていいと思うんです。作っている人自身からこそ聞ける話もあるし、お客さまもこの人が作ったんだなっていうのがわかるので」と話す。

 俊徳さんと杏里さんは二人揃って「今、ベーグル屋をやっていてすごく楽しいです。どの工程も楽しい。接客も楽しい」と笑う。続けて杏里さんはこう話す。「辛いのは疲れた時くらいですかね。それもね、お客さまにいっぱい来て頂けたから、楽しいの一部なんでしょうけど」

 季節や天候、素材と丁寧に向き合い、自分たちが美味しいと感じるベーグル作りに勤しみながら、やさしく美味しい循環を生み出すために生産者と買い手をつなげている俊徳さんと杏里さん。そんな二人の店には、気負いのない、少しゆるめの心地よい空気が流れている。

ReRi Bagel リリベーグル

五泉市旭町7-15 営業時間:11:00〜18:00(売り切れ次第終了) 定休日:月〜水曜

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