COFFEE AND MUSIC_1.BERON COFFEE ROASTER
人と人、人とモノ、モノとモノの循環。信用から生まれる、おいしいコーヒー。
今や巷では、スペシャリティコーヒーという言葉は普通に使われ、コーヒー屋さんに行けば普通に飲めるようになった。スペシャリティコーヒーは品種にもよるけれど、豆本来の味を生かすため浅煎りもしくは中煎りの場合が多く、私が好きなエチオピアは浅煎りが多い。浅煎りのコーヒーを美味しく淹れるのは難しく、私は美味しく淹れられるようになるまでに3年ほど費やした。そんな私が初めて浅煎りのコーヒーを美味しく淹れられたのは、秋葉区荻島にある「BERON COFFEE ROASTER」(以下、ベロン)のエチオピアだ。初めてちゃんと果実の酸味と香り、甘味が感じられるコーヒーを入れられた時は、それはもう嬉しかった。
店主の伊藤久幸さんはコーヒーの焙煎だけでなく、実家の農業を継いで仲間と共に「KIKI FARM」を立ち上げ、お米の栽培もしている。ベロンは開業当初、オンラインストアやイベント出店が中心だったが、現在は実家の納屋を改装した焙煎所でコーヒーを飲んだり、コーヒー豆やお米を買うことができる。店は県道46号線からほんの少し入った住宅地にひっそりと佇んでいる。近くに小阿賀野川と能代川あり、川からいい気が流れてくるのか、静かな上に気持ちがいい。小阿賀野川沿いと能代川沿いにはサイクリングロードがあるので、ライドの立ち寄りスポットとしてもお薦めだ。
買い手のことを考えると妥協はできない
伊藤さんはコーヒー屋としても米農家としても未経験のゼロからスタート。お米の栽培はわからないことがあれば仲間や親に相談できたが、コーヒーに関しては身近に相談できる人がいなかった。コーヒー屋としての一般業務のノウハウもない。焙煎は20代半ば頃からやっていた為、美味しいコーヒー豆を焼くことはできる。しかし、味づくりに関しては、どこにも習いに行っていない為、本を読んだり、インターネットで調べたりと独学で勉強した。コーヒーの焙煎は化学。理論はわかっていても実際に理論通りになるとは限らない。経験がものをいう。全てが手探り状態だった。そんな中、伊藤さんが大切にしてきたことは、妥協しないこと。
「一人でやっているとどうしても、まっ、いいか、とゆるくなりそうな場面が出てきます。お米を安心安全な方法で栽培しているのは、自分がお客さんの害になるものを作りたくないから。管理を楽にして生産性を上げることはやろうと思えばできる。でも、それをやっちゃうとダメな気がするからやらない。コーヒーも同じで、それを大切に思っていないとできないし、大切に思わなくなったらやめた方がいいと思う」
KIKI FARMではトレーサビリティーを大切にし、お米は顔が見える範囲で販売している。コーヒー豆もお米と同じで、顔の見える農園の人とコンタクトを取って仕入れたり、信頼のおけるインポーターから仕入れている。コーヒー豆はサンプルをテイスティングして味を確認してから仕入れるが、実際にコーヒー豆が届いて味を確認するとサンプルと違うことが時々ある。その為、まず一回は同じ条件で焙煎し、味を確認する。この豆だったらこういう味にしたいというイメージを掴んだら、その味に向かってレシピを組んで焙煎を行う。焙煎している時は機械任せにせず、コーヒー豆の変化を見逃さないように、きちんと向き合うように努めているそうだ。
伊藤さんの前職は音響エンジニア(以下、PA)。かつてビルボードプレイス2にあったクラブ「プラハ」でPAをしていた。プラハといえば国内外の名だたるDJが数多くプレイしたクラブ。ベロンを訪れると、スピーカーから聞こえるクリアな音にすぐ気づくだろう。そんなPAだった伊藤さんが焙煎で楽しいと感じる時は熱のコントロールをしている時だという。
「火力をコントロールする時にターニングポイントがあるんです。そのターニングポイントを逃さずに排気をコントロールしていく。プラハの音の鳴りは、高い音から低い音のイコライザーのつまみをいじりながら調整するんですけど、そういう感覚に焙煎が似ています。PAの時は色々工夫しながらいい音を導き出すことが楽しかった。それと同じことを焙煎でもしています。シンプルに何もしないで何も触らないで熱のコントロールだけで焙煎してみたり。豆によってはそれが合う豆も出てきて面白い」
日々、試行錯誤しながら美味しいコーヒーを作り出している伊藤さんに、私はどんなコーヒーが好きか聞いてみた。
「コーヒー自体が美味いというよりは、何かとセットのことの方が多いかもしれないですね。田んぼで飲むコーヒーだったり、山で飲むコーヒーだったり。音楽もそうなんですけど、絵が見える瞬間がある。映像が思い浮かぶというか。そういうコーヒーが好きです」
確かにそうだ。私もジャズを聴いている時やナチュラルワインやコーヒーを飲んでいる時に映像が見える瞬間がある。もちろんベロンのエチオピアも然り。
可能性を秘めたコーヒーとお米
ところで、皆さんはコーヒーの生豆が実は種子だと知っているだろうか。種子と果肉の間にはミューシレージという粘着性のものが付着しており、水洗いしても落ちない為、精製する際に発酵の力でミューシレージを取り除くのだそう。伊藤さんは米麹を媒体にしてコーヒーのプロセスを進めることを試してみたり、コーヒーの出し殻を発酵させて堆肥にするための構想を練っている。KIKI FARM全体で約1.4町の田んぼがある。東京ドーム並みの広さだ。1.4町の広さに対し堆肥は1.4トン必要。実現させるにはトレーサビリティーがしっかりした店からコーヒーの出し殻を集めて堆肥にしていくためのノウハウも身につけなくてはならない。課題は山積みだが、コーヒーとお米の循環が実現できたら、喜喜として暮らす人たちの輪が更に広がっていくだろう。今後について伊藤さんは
「ここを拡大し、コミュニティが派生するような場所として成長させたいです。色々できると思うんです。テナント用の店舗を作って、自転車屋さんやパン屋さんに入ってもらって、子供が遊べるようにデッキを作ったり、日本庭園の中に自転車コースを作ったり、蔵をスタジオにしてもいい。とにかく遊べる場所を作りたいですね」
と話す。私は伊藤さんの話を聞きながら、ここに集う未来の人たちの笑顔が浮かんで見えた。
BERON COFFEE ROASTER ベロン コーヒー ロースター
新潟市秋葉区荻島1丁目10-56
営業時間:(平日)10:00〜16:00(土曜)10:00〜18:00
定休日:日・火・水曜
Instagram:@beron_coffee_roaster
@kikifarm_project
COFFEE AND MUSIC selected by 伊藤 久幸
「僕がコーヒータイムに流したい一枚は
Huw Marc Bennettの『Tresilian Bay』。
アルバム聴いてみませんか?」
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