ぼくはお酒と雑学が好き

文 Bar Hallelujah ジュンジ

Tracey Thorn『A Distant Shore』1982

Everything Bad The Girl「Night and Day」1982

Ben Watt『North Marine Drive』1983

Ben Watt「Some Things Don’t Matter・On Box Hill」1983


第2回 

Once Upon a Time in 護国寺。色褪せない思い出と音楽。

 バーに立って仕事をしている時に沖縄に住んでる友人の奥さんから電話がかかってきた。賑やかな酒場からかけてるのか後ろから誰かの大きな笑い声がする。

「ごめんなさい。この人ったら自分で電話をかけておいて私に代わるんだもの」

酔った彼を迎えに来たらしい。

「あのレコードまだ持ってるか?って訊いてますけど」

男同士なんて照れくさいもので、何かを言いたくて電話したのに電話した途端に話す言葉が出ないもの。何も酔って電話をかける相手は別れた彼女のところだけではない。

 80年代の初め彼と僕とオンナのコと猫6匹と共同生活してた。有楽町線の護国寺駅を出て首都高5号線の高架をくぐり、坂を登った細い脇道を入ったところにあった平屋のアパートだった。近くには早稲田大と椿山荘があった。コンビニと呼べるところはまだなくて、なだらかな坂道の突き当たりに酒屋があるだけで、猫の餌やらビールはそこで買った。毎日のように坂道を登ってはビールを買い、坂道を下りながらビールを飲んだ。あの頃の僕らのraison d’être(存在理由)なんて他に証明できるものはそれしかなかった。彼の方は四谷のレストランで働いてた。いつもお店からジャガイモやら海鮮などをもらってきては3人で料理して食べた。テレビさえなかった。けれどいつもほとんど僕のレコードをかけていた。畳の上に寝そべって肘を着きなら1枚2枚とレコードを選んでは針を落としミックステープを造った。決まって猫が邪魔しにきたものさ。僕はクラブやライブハウスで働いたり、夜は西麻布でDJなんかも始めてた。出逢ったばかりのオンナのコに観たばかりの映画のことや昨日今日知ったばかりの本か何かで得た知識を自分の事のように語ってたそんな時代だ。みんながそんな風だったと思う。今もたいして変わらないけれど。

 ある夏の夜アパートの軒先で蛍を観た。きっと近くの椿山荘からはぐれて来たに違いない。台所の灯りを消して開け放たれた窓際に座り、息を殺して影を抑えてビール片手に眺めていたのを覚えている。あの頃からずいぶんと時間は過ぎている。それでも尚あの頃毎日のように聴いていたTracey Thornのアルバム「A Distant Shore / 遠い渚」のレコードは色褪せない。40数年の時を経てボーナストラック付きで再発された。夫になるBen WattとのユニットEverything But The Girlとしての1stアルバムの前に、ギターと声とリヴァーヴだけで録音されたシンプルな完全なる不完全さを纏った奇跡のようなアルバム。Velvet Undergroundの“Femme Fatal”のカバーもこっちを先に知ったんだ。当時の日本盤のレコードにはEBTGのシングルとして発売された”Night and Day / On My Mind”も収録されていた。Benも同じ頃にソロアルバム「North Marine Drive」をリリースしてる。(これがまたおそろしくいいのだ)

 キミが若くて何かを探してる毎日ならきっとこの2枚は時代を超えて宝モノになってくれると思う。いやそうなってくれたらいいな。

Craft Gin 

Manhattan Clam Chowder

寒い季節は定期的に食べたくなるトマトベースのクラムチャウダー。

アサリとベーコン、野菜の旨みがたっぷり。


Bar Hallelujah バー ハレルヤ

新潟市中央区古町通5-598-1 

18:00-25:00 日曜日定休(祭日前営業)チャージなし 

Instagram:@bar.hallelujah

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