TOMORROW'S HOME

ステイホームの時期に、今までの生活を見直したり、新しい楽しみを見つけたりした人も多かったのではないだろうか。この時期に考えたことは無駄にしたくはないと思う。かつてチャールズ・イームズは「情報の時代が終わったら、次は選択の時代だ」と言ったそうだ。情報が溢れる今の時代。これからは、何が大事で、何を大切にしていきたいのかを自分自身で考えて行動に移していくことが重要になってくるのではないかと思う。家の中だって同じ。本当に好きなものは何かを自分自身で考えて選び、好きなものをたくさん使って、楽しみ尽くす。好きなものを使っていると、それだけで心が豊かになれると思うのだ。そこで、名言を残してくれたチャールズ・イームズにちなみ、未来の心地よい暮らしをイームズハウスに学ぼうと思う。イームズハウスには新旧および有名無名問わず、チャールズとレイが見つけてきたお気に入りで溢れている。自ら手がけたデザインの家具に旅先から持ち帰った民芸品、緑豊かな観葉植物や花器に活けられた美しい花。それらが溶け合って、唯一無二、チャールズとレイの個性が溢れた住まいになっている。今回は、イームズをはじめとした優れたデザインのインテリアを扱っている「APARTMENT」と、イームズも愛したフォーク・アートや日本国内外の民芸品を扱う「カメラのデンデン社」を紹介したいと思う。


01 APARTMENT

心が豊かになるお気に入りが見つかる店

 西堀通と鍛冶小路の交差点近くに、壁面が黄土色のタイル張りのビルがある。日が沈むと黄色いネオンサインが灯り、APARTMENTの文字が浮かび上がる。そう、そのビルの店の名前は「アパートメント」。国内外の流行に左右されないデザインだけをセレクトしているインテリアショップだ。

 いつも店先に、ジャック・タチの映画「のんき大将脱線の巻」に出てきそうなヨーロッパテイストのTOKYOBIKEの自転車が並んでいる。1階では食器やカトラリー、フラワーベースにガーデニンググッズ、観葉植物にスツールなど日常雑貨を見つつ、階段下のスペースにディスプレイされている80年代のフランス映画に出てきそうなインテリアをじっくりチェック。2階へ上がると、まずは私の方を見ているキット・キャット・クロックに向かってハロー!とご挨拶。ふと北側を見ると、窓から差し込む柔らかな光がカリモク60のKチェアを照らす。なんとも絵になる佇まいだ。3階では憧れの家具を目の前にして空想タイムに突入。クエロのBKFチェアを見ると私の好きな画家、ジョージア・オキーフのゴーストランチの家に置いてあった白いBKFチェアを思い浮かべてしまい、白はなかったがキャンパス地の生成色が展示されてあったので、私の部屋に合うだろうかと想像する。残念ながら私の部屋の大きさに合わなさすぎるので却下。イームズのシェルチェアを見ると、またまたジョージア・オキーフのアビキューの家にあった赤いLCWを思い浮かべてしまい、LCWは素敵だけど、私の部屋にはきちんとしすぎているからシェルチェアの方が合うかもしれない。そんな具合にフロアを見て回り、楽しんでいる。3階から4階へ上がる階段スペースは私の胸キュンスポット。黄色い壁に黒ネコの絵が描いてあり、小スペースながらも楽しい空間だ。4階も洋服が売られていたり、イベントが開催されていたりするのでチェックは欠かせない。アパートメントに立ち寄ると、大体こんな感じで各フロアを楽しみながら見て回る。

 店のオープンは1995年。初めは”モダン”な椅子、イームズを売る店として「アトミックモダン」という店名で東堀6番町に店を構えた。オーナーの田村さんは、初めは椅子の販売ではなくてカフェを始めるつもりだったという。

「友人とカフェを始めることになったんですが、カフェを始めるには予算が足りず、安い家具を探そうとある中古屋を訪れたらイームズのサイドシェルチェアを発見したんです。イームズ自体知らなかったけれど、10代後半に過ごしたロサンゼルスのホームステイ先の庭に置いてあった椅子と同じで見覚えがありました。椅子の販売元をホストマザーに調べてもらい、ハーマンミラー本社に直接電話をすると、もうハーマンミラーではシェルチェアを作っていないが、ロサンゼルスにシェルチェアを売っている店があると言ってMODERNICA(モダニカ)を紹介されたんです。モダニカに電話をすると、今度は東京店ができたばかりと言って東京店を紹介される。東京店に電話すると、まず言われたのは、新潟で売れるんですか?でした。くしくもその頃、ブルータスでイームズ特集が組まれた時だったんです。僕たちはカフェに置く椅子が欲しかっただけなのに。どこかで話が交錯していたようです。しかしカフェはないけど喫茶店はある、でも椅子の販売店はないから椅子の販売をやろうということになったんです」 

 アパートメントは今年25周年を迎えた。25年の間にはデザイナーズにアノニマス、ヴィンテージ、アメリカに北欧、フランスなど色々な流れがあった。

「流行に関係なく、いつも好きか嫌いかで判断してきました。今もそれが正しい判断だと思っています。作家さんのものにも良いものはあるし、アノニマスにだって良いものがある。ミッドセンチュリーにだって、北欧にだって良いものがある。お客さんには、これもある、これもある、こんなものもあると色々なものを見て欲しいと思っています」

 田村さんは本物であることを大切にしている。

「リプロダクトや粗悪なコピー商品は扱わず、お客さんにはちゃんとしたものを売りたいと思っています。ジェネリックは本物とは思っていません。例えば偽物のロレックスをしていて楽しいと思いますか。時計は偽物はダメなのに家具は偽物でも良いなんておかしいですよね。だから僕は店で扱っているものは全てちゃんと権利を取って売っているんです」

 アパートメントではシンプルなデザインの商品だけでなく、私たちの暮らしを楽しくしてくれる、流行に左右されないデザインの商品も沢山扱っている。ところで、そもそも良いデザインとは何だろう。

「良いデザインに基準なんてないですよ。自分たちの価値観ですから。好きなデザインって色々ありますよね。自分の価値観が誰か特定のものに影響を受けて今があるなんてことはないと思っています。生まれてから過ごしてきた全てのものに影響を受けて今があると思っているんです。だから僕は特定の人に影響を受けたこともないです。ただ好きな人はいますよ。やはりイームズから始まったのでイームズは好きです。単純にかっこいいです。異素材をこんなに使う人は当時珍しかったと思うし、色々なアプローチのデザインをしています」

 店で扱っているのは家具だけでない。初めは椅子の販売から始まったが、今ではインテリア雑貨や食器に自転車、観葉植物など様々な商品を扱っている。

「僕たちは家具屋と思ったことはないです。初めは椅子だけでしたが、何でも良いんです。良いデザインだけを売るデザイン屋なんです。自分たちが良いと思ったものだけを売る。それから、一般の人が多分知らないであろうなというものを紹介したいという気持ちは強いですね。それは僕たちが家具屋ではないからです。どちらかというとギャラリーなんです。だから偽物は売れないんです。ギャラリーには偽物は置いてないですよね」

 家具や雑貨を選ぶポイントは、まず好きか嫌いかで選ぶことが大事、その次に合うか合わないかを考える。好きなものを自由にミックスすると自分らしいスタイルある空間ができあがる。

「僕たちは、お客さんに相談される場合は、部屋に合うか合わないかを最初に提示しないようにしています。合うか合わないかで選ぶとつまらないじゃないですか。合うか合わないかではなく、好きか嫌いかで選んだもののミックスした感じがその人の性格と一緒だから、そっちの方が面白くて良いですよね。暮らしが楽しくなると思います」

 そんな田村さんは家ではどんなものを使っているのだろう。田村さんが実際に家で使ってみて良かったものや思い入れのあるものを教えてもらった。

「店に来てくれるお客さんはファミリー層が多いので、僕個人の趣味と店で扱っているものは違いますよ。僕個人の趣味のものでは、まずヨルゲン・カストホルムのスケーターチェアですね。僕はこの人のデザインが大好きなんです。この椅子はしなるんです。座り心地も良いですよ。次にマイケル・ヤングのコーヒーテーブルです。イームズ以外で初めて好きになったのはマイケル・ヤングです。ロンドンに行った時に彼に会いに行き、直接コーヒーテーブルを買ってサインしてもらいました。マイケル・ヤングに出会って、新しいものにも良いものはあるんだなと思うようになり、色々なデザイナーのもの、色々な時代のものを扱うようになりました。あとはエリック・マグヌッセンのゼットダウンチェアですね。これはただ単にかっこいいです」 

 アパートメントは店を始めてから25年の間に6回引越しし、良い時もそうでない時も色々あったという。それでも続けてこられたのはなぜか。

「もう1回引越したいですね。今より広い場所へ。もちろん古町で。僕たちは古町だからやっていたいんです。25年の間に色々ありました。それでも続けてこられたのは、楽しかったからです。25年というと長そうに聞こえますが、僕たちにとって25年って7年くらいの感覚なんです。人間でいうと25歳って、まだ子供ですよね。だから僕たちはこれからなんです。これから15年くらいが、もっともっと皆んなに楽しんでもらえると思います!」

 田村さんの明るく前向きな言葉に嬉しくなってしまった。今でも店を訪れる度にワクワクするのに、これからどんなお楽しみが待っているの?これからもアパートメントから目が離せない。

【写真右下】中央の作品は8/15−9/16に4階で開催されていた、つるまきりえさんのドローイング展で展示されていたもの。


APARTMENT アパートメント

新潟市中央区西堀前通4番町738−1 ☎︎ 025−225−1950
10:00−18:00 第1・第3木曜日定休


02 カメラのデンデン社

好きという小さな輝きがつまった店

 柾谷小路から古町モールを下の方へ進んで行くと、新潟コンピュータ専門学校(旧カミーノ)の向かいに、緑と白地に赤い大きな字でフジカラーと書かれた看板の店がある。フジカラーの下には黒字で「カメラのデンデン社」と書かれてあり、一見、カメラ屋かと思ってしまうが、実は日本だけでなく様々な国の民芸品を扱う店なのである。

 初めて店に入った時にメキシコのフォーク・アートと言われている生命の樹(ツリー オブ ライフ)や天使のベルを見つけ嬉しくなってしまった。生命の樹はアレキサンダー・ジラードや柚木沙弥郎、猪熊弦一郎などで知り、一度実物を見てみたいと思っていた。それが新潟で、しかも身近で見られるとは思ってもみなかった。

 店内にはヨーロッパや中近東、アフリカ、インド、メキシコなどから集められた器やガラスに鉄ものや布もの、人形にアクセサリーまであり、日本のものでは郷土玩具だけでなく柚木沙弥郎に芹沢銈介、小島悳次郎などの作品、新潟の染色家の藍染作品などもあり、見応えがある。

 私は学生の頃によくカミーノへ遊びに行っていたので、店の存在は知っていた。しかし、実は素敵な民芸品を扱う店だったとは露知らず、数年前までずっとカメラ屋だと思っていた。

「両親がカメラ屋をやっていたんです。昭和50年頃でしょうか、白黒プリントの需要がなくなってきた時に暗室として使用していた2階をギャラリーにしました。両親は民芸が好きで、家では家具も民芸、いつも民芸の器を使って食事をしていました。民芸品を日常で使っていましたので、普通の家庭で使う器と思って使っていました。民芸を扱い始めても店名を変えなかったのは、カメラのデンデン社という名前を昔から知っている人がいるから。このままで良いかなと思ったのです」と教えてくれた店主の伊藤さん。

 ギャラリーでの第1回目の展覧会がなんと芹沢銈介の展覧会だったという。

「両親が日本民藝協会の会員だったので、日本民藝協会の方から芹沢先生の展覧会をしませんかと声をかけていただいたのです。芹沢先生の次の展覧会が小島先生。柚木先生の展覧会もさせていただきました。芹沢先生の展覧会がパリで開催された時に私も展覧会を見にパリへ行きました。その時に芹沢先生にお会いしたのですが、芹沢先生は展覧会を見に来た一行に、落ちていたマロニエの葉っぱに一文字ずつ書いてプレゼントしてくださったり、図録にサインしてくださったりと、優しい方でした」

 店を訪れた時に、伊藤さんが芹沢銈介のカレンダーやうちわを持ってきて見せてくれた。カレンダーは毎年過去のアーカイブから復刻カレンダーが発売されているそうだ。芹沢銈介の特徴である模様の楽しさや美しさ、色彩の明るさに心が奪われる。カレンダーのデザインは今見てもモダンだ。色々な色彩や模様が配してあるが、決してうるさくない。アメリカなどでコレクターがいるというのも納得だ。うちわは竹でできており、持ち手は軽く、扇いだ時の風あたりも柔らかだ。デザインだけでなく使い勝手も良い。用の美とはこういうもののことを言うのだろう。

 カメラのデンデン社は日本の民芸品だけでなく、色鮮やかで元気がでるような海外の民芸品も多く扱っている。先に挙げたメキシコの生命の樹や、見ているとついつい目を細めてしまうような表情豊かな人形、ぽってりとした温かみのあるイギリスのスリップウエアや大胆なラインで描かれたスペインの器、アフリカのクバ族の草ビロードに、厚手でぼってりとしたイランのガラス、土から採取したビーズを使って作ったアフガニスタンのネックレスなど多彩だ。

「両親が店をやっていた頃から世界の民芸品を扱っていました。西洋のものも好きなんです。西洋のものは、自分の生活をとりまく中に取り込んでいけます。西洋の人が作る作品は大胆な所が良いなと思います。メキシコのフォーク・アートは、新潟の冬は暗いでしょう、だからメキシコのフォーク・アートのすごく明るくて大胆な所が気分を明るくしてくれて良いなと思って集めてきました。商品を選ぶ時にジャンルで分けることはしません。そのものが持つ色気だったり、経年劣化でハゲてくる所もありますが、そのハゲ具合が素敵だったりするんです。好きになると、その国の本を読んだりして、文化や背景を知り、更に興味が広がっていきます。そうやって扱う商品の国が増えていったのです。選ぶ時は全て直感。一番最初に見て良いなと思ったものを選んでいます」

 伊藤さんは、店だけでなく、自宅でも常に好きなものに囲まれていたいという。

「生活の中で、自分の気持ちにぴったりとしたものに囲まれて暮らすとくつろげるから好きです。好きなものの後ろにある文化や背景を調べるのも楽しいし、器だったら何を入れようか考えるのも楽しい。美しいものに囲まれるって良いことじゃないですか。今の世の中、コロナ禍だとかマイナスなことばかりだから、そうやってプラスにしていく必要があると思います」

 伊藤さんのお話から、日常の至るところにワクワクするような楽しみが潜んでいることがわかる。気持ちの持ち方ひとつで暮らしが楽しく豊かになれるのだ。

「柚木先生が、生活を楽しむことをしなさいと仰っていましたが、本当に感激とかワクワクする心がないとつまらないと思います。身近にワクワクがあれば、それほど良いことはないと思います。これからも健康で楽しんで生活していきたいですね」

 民芸品は日常に使われる愛しいもの。私たちが暮らすまちに、毎日が楽しくなるような民芸品を扱う店があるということ、伊藤さんのような素敵な先輩がいるということは嬉しいことだ。

【写真左下】 芹沢銈介の型染カレンダー

2021年のカレンダー予約承り中。気になる方は10月末までにカメラのデンデン社までお問合せください。


カメラのデンデン社 カメラノデンデンシャ

新潟市中央区古町通7番町1003−1 ☎︎ 025−228−0786

9:30−16:50 日曜日定休

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