03. わたしのSmile Food。

01.〈ITALIAN RESTAURANT LIFE NIIGATA〉のパスタ

02.〈かなで食堂〉の今日のお弁当

03.〈GIVE ME CHOCOLATE〉のパンケーキランチ

04.〈コーヒーショップ器〉のケーキセット

05.〈delica & liquor conne〉のキッシュ


私たちの住む新潟市は日本海に面しており、まちの中心部を日本一の長さを誇る信濃川が流れている。少し郊外に出ると、緑も多く、一面に広がる田んぼや畑を望むことができる。心落ち着かない日々が続いたとしても、知らず知らずのうちに、自然が私たちを癒してくれ、美味しい食べ物が私たちを元気にしてくれる。そう気づいたのはステイホームの時だった。あの時から飲食店を通して生産者のことも意識するようになった。家で食事を作る時は、時間にゆとりがあるので、丁寧に料理するようになったし、色々な料理に挑戦し、料理の楽しさや手作りの美味しさを再確認した。だけど時々、外での食事が恋しくなった。あの店の〇〇が食べたい。あの店で食べたい。今まで考えたことはなかったけれど、いつも飲食店から小さな幸せをもらっていたのだなと思った。そこで、今回は飲食店特集!店に行くと頼む率が高い私の偏愛フード。どんな時も食べてにっこり、笑顔がこぼれてしまう私のスマイルフードを紹介しようと思う。


01〈ITALIAN RESTAURANT LIFE NIIGATA〉

パスタ

 心地よい風が吹くと、心地よい風に導かれて、自然と足が向かう場所がある。やすらぎ堤だったり、海岸へ向かう道だったりと、心地よい風は自然の中で感じることが多いが、心地よい風を感じるのは自然の中だけではない。自然の中以外にだって心地よい風を感じることがある。東堀にある「ITALIAN RESTAURANT LIFE NIIGATA」(以下 LIFE)もその中の一つだ。緑が多く、ナチュラルな内装だからというだけではない。LIFEには人が生みだす心地よい風が流れている。

 いつも大きなドアを開けて中に入ると、スタッフの皆さんが気持ちよく迎えてくれる。席に着くなりメニューを見て「さあ、今日はどんな食材を使ったパスタだろう」と確認するところから私のLIFEでの時間が始まる。LIFEを訪れる時は季節の食材を使った日替わりのパスタを頼むことが多い。LIFEにはパスタ以外にも人気のメニューがあるが、スパゲッティからパスタへ呼称が変わる過渡期を経験している私にとって、パスタは今でも一目置く存在で、目移りしながらも結局はパスタに行き着いてしまう。もっともLIFEのパスタは美味しいのだから仕方がない。 

 ランチでパスタを頼むと、毎回、お皿に盛り付けられたパスタやサラダ、お惣菜の彩りの美しさに目を細めてしまう。カジュアルにワンプレートに盛り付けられてあるが、食べれば一品一品が丁寧に作られていることがわかる。

 ある日のパスタはトマトとオクラとオイルサーディンのパスタだった。トマトの旨みが凝縮されたソースとパスタがよく絡んでいて美味しい。フレッシュなプチトマトと一緒に食べるとプチトマトのジュースが口の中に広がり、オイルサーディンと一緒に食べるとコクが増す。スライスした玉ねぎの甘みと食感やオクラの独特の食感もパスタをより美味しく楽しいものにしてくれる。付け合わせのサラダはドレッシングが絶品だ。作りたてだとわかる玉ねぎのフレッシュさ。ピンク色に染まっているのはビーツを使っているからだそう。お惣菜のマッシュポテトや切干大根も丁寧に作られているのが伝わる味わいだ。気持ちの良い空間でゆったりと美味しい料理をいただく。あぁ、なんて幸せなのだろう。

 LIFEのオープンは2009年8月。東京・代々木にあるLIFEの新潟店として東堀に店を構える。オープンから11年経った今では、若い人たちだけでなく、ご夫婦であったり、小さな子供を連れた家族や、仕事の合間に一人で食べに来る人まで幅広い層の人たちが店を訪れている。そんなLIFEでは、地域に根付いた場所にしていくためにオープン当初から、ご近所を含めた古町界隈の人たちとの付き合いを大切にしているという。だからだろう、COVID-19の影響でランチボックスを始めた時に、個人のお客さまだけでなく、従業員から希望を募って注文してくださったお店が複数あったのだそう。

 LIFEの調理を担っているのは、東京や新潟の有名なホテルでフランス料理の腕を磨いてきたシェフの長谷川さん。LIFEのオーナーシェフ相場さんのレシピを基本にし、フランス料理の技を生かしながら料理しているのだそう。時に長谷川さんは、実家のご両親が育てたバジルを出勤前に摘んできて、料理のアクセントに使ったり、バジルソースを作ったりすることもあるのだという。

 LIFEはテイクアウトメニューも充実している。美味しい食事をしたいけれど、まだ外食に抵抗があるという人には嬉しい。「お客さまの”笑顔”と”明日への活力”の助けになれるように、毎日食べても飽きのこない美味しい料理をお届けしたいと思っています」と話してくれたホール担当の布澤さん。テイクアウトの利用時に予約を推奨しているのには理由があった。「大切に育てられた食材を美味しく料理することを日々心がけています。大切に育てられた食材にはつくり手の方達がいて、それを余すことなく料理することが同じつくり手として大事な気持ちだとシェフをはじめ僕たちは思っているんです」と布澤さんはいう。そういったLIFEの真摯な姿勢に共感した人たちも多かったと思う。LIFEがランチのみ店内飲食を再開した時に店を訪れた私は、とても温かい気持ちになった。またLIFEで食事をすることができて嬉しいと感慨に浸っていると、店内にいる人たちの楽しそうに食事をしている姿を見て、皆んなも同じ気持ちなのではないかと思ったのだ。「確かにそんな感じがありましたね。これからも地域に愛されて、当たり前のようにLIFEがあって欲しいと思います。その当たり前を続けていくことが一番難しいのですが」と語ってくれた布澤さん。 

 LIFEは私たちのLIFEに欠かせない存在。今日もLIFEには心地よい風が流れている。

ITALIAN RESTAURANT LIFE NIIGATA イタリアン レストラン ライフ ニイガタ

新潟市中央区東堀5−438−1F ☎︎ 025−228−3756

■lunch time 11:30−14:30 weekend 11:30−15:00

■dinner time 18:00−22:00 Saturday 18:00−23:00

火曜日・水曜日定休


02〈かなで食堂〉の本日のお弁当

 野菜がいっぱい食べたい、美味しいものを食べて元気になりたい、そんな時、私は本町の人情横丁にある「かなで食堂」に駆け込んでしまう。店が職場近くにあるのでランチに利用するのだが、今日のお昼はかなで食堂と決めたならば、休憩時間になると小走りで店に向かう。なぜかと言うと開店と同時に私のような近隣で働く人や近所の人が、手作りのお弁当やお惣菜、店先に並ぶ無農薬野菜などを買いにやって来て、すぐに店内がいっぱいになってしまうからだ。店先で販売している野菜は自家農園「かなでファーム」で作った無農薬野菜。全て一袋150円という安さに驚いてしまう。会計は無人販売所と同じシステムで、お金を入れる箱があり、野菜が欲しい人は箱にお金を入れて購入する。新潟市の中心部に位置しながら、こういうことができるのは、まちの人と店との間に信頼関係がなければ成り立たない。店内に入るといつも店主の中野さんが笑顔で元気よく迎えてくれる。私はいつも「本日のお弁当」を頼む。本日のお弁当だけで5種類前後あり、定番のおかずだけでなく日替わりのおかずが多いのがこの店の特徴。いつも何にしようか迷ってしまう。ある日私は、かなで食堂の定番、若鶏のしょうゆ麹漬け焼きのお弁当を頼んだ。ふっくら炊き上げられた甘みのある7分付きのごはん。しょうゆ麹に漬けられジューシーに焼き上げられた鶏肉は、しょうゆ麹のまろやかな塩気とコクに香ばしさ、そして鶏肉の旨みと甘みがたまらない。副菜に新鮮な野菜をたっぷり使用した4種類のお惣菜が付く。和風の味付けだけでなく、クミンなどのスパイスを使ったお惣菜もあり、どれもが食材を生かした程よい味付けでごはんがすすむ、すすむ。

 かなで食堂では中野さんが”自分が食べたいと思うもの”、”家族に食べさせたいと思うもの”だけを作って提供している。お子さんができて、安全で美味しいもの、身体が喜ぶものを求めていったら、自然と無農薬・無添加の食材に行きついたそうだ。かなでファームの野菜は中野さんのご両親が農薬を散布せずに丹精こめて作っている。無農薬の野菜は虫がついたり、病気になりやすく、また、かなでファームは信濃川河川敷に畑があるため、毎年雨で畑が浸水してしまい、作るのが大変なのだそう。それでも中野さんのご両親は野菜作りに真摯に取り組み、やりがいを感じているそうだ。

「今日も楽しかったなと言って畑から帰って来るんです。私は両親が作る野菜は美味しいと思います。作るのが好きな人が作るものって美味しいですよね。お店で扱っているものは作るのが好きな人、パワーをもらえる人から買っているんです」

 そんなこだわりの食材を使って作られるお弁当やお惣菜。メニューの多くが日替わりで変わる。日々沢山のメニューを考えるのは大変ではないかと思ってしまうが、中野さんは全然苦にならないという。

「家で献立を考えるように、食材を見て作りたいものだけを作っているのでメニューを考えるのに困ったことがないんです。毎日来てくれるお客さまもいるので、家庭だと毎日同じものは出せないのと同じで、店でも同じものは出せないなと思ってメニューを変えています。店が休みの時に仕込みをしているんです。せっかく仕込むなら、店を開ける時にお惣菜の種類がいっぱいあったほうが良いなと思って仕込んでいるんです。野菜がいっぱい食べたい時や自分の時間を大切にしたい時、忙しくて疲れた時や体調がすぐれない時は、私は野菜が好きで、料理を作ることも好きなので、私の作ったお惣菜やお弁当を利用して欲しいと思っています」

 中野さんは本町が大好き。本町近辺で暮らす人たちは行きつけの八百屋や肉屋に魚屋などがあり、対面で人としゃべって買う楽しさがある。本町には他のまちにはない流れがあるのだという。

「本町を通れば、おはようって挨拶を交わす。そんな時に私はこのまちで生きているんだなと感じるんです。これからもこのまま本町でお店を続けていたいですね」

 かなで食堂のお弁当やお惣菜は、中野さんが本当の家族に食べさせるように、食材選びから調理に至るまで愛情たっぷりに作られたものばかり。美味しいものを食べることも作ることも大好きな中野さんが作る料理は本当に美味しい。そして中野さんの作った料理を食べて温かい気持ちになり、パワーをもらって元気になる。かなで食堂はまちに暮らす人たちの日常の一部。頼れる皆んなの台所。保冷材バッグを抱えて訪れる常連さんや、野菜がいっぱい食べたいと訪れる人たちを見かけると、つい、そんなふうに思ってしまう。

かなで食堂 カナデショクドウ

新潟市中央区東堀前通6本町中央市場商店街(人情横丁) ☎︎ 080−4737−1553

12:00−20:00 営業日:水曜日から金曜日


03〈GIVE ME CHOCOLATE〉のパンケーキランチ

 東京へ遊びに行った帰り、新幹線の発車までに時間がある時は、たまに東京ステーションホテル内にあるTORAYA TOKYOでお茶をして帰ることがある。私が訪れる時はいつも満席なので、フィリップ・ワイズベッカーが描いた東京駅丸の内駅舎の絵が見える席に通された時は、今日は良い日だったなと思ってしまう。私の場合は、喫茶店でもレストランでも、好きだなと思える絵があると、それだけで次に訪れる理由となる。

 万代にある「GIVE ME CHOCOLATE」(以下 ギヴチョコ)もそんな店の一つだ。私は店の奥の壁に飾られた大きな絵が好きだ。その大きな絵は何とも言えぬゆるさとかわいらしさに加え、ノスタルジックな雰囲気がある。好きな絵が飾られた空間でお茶をしたり、食事をしている時はそれだけで気分が良い。

 ギヴチョコにはミートローフやBLTサンド、デザート用のパンケーキにパフェなど無性に食べたくなるメニューが沢山ある。その中でも私がよく頼むのはパンケーキランチだ。バターが薫るふわふわのパンケーキに、塩気の効いたスパムや黄身がぷるんぷるんのベーコンエッグ、野菜たっぷりのサラダと日替わりの惣菜が付いてくる。お皿の上で一品一品が美味しそうな表情をしていて、運ばれて来た瞬間に高揚する。さて、パンケーキに欠かせないメイプルシロップはどうする? メイプルシロップをパンケーキ全体にかけて、スパムやベーコンの塩気と一緒に甘じょっぱさを楽しむのも良いし、パンケーキの半分は何もかけずにシンプルにスパムやベーコンの塩気だけで味わい、その後、残りの半分にメイプルシロップをかけてデザートとして楽しんでも良い。どうやって食べるか考えること自体が楽しく、私にとって至福のひと時だ。

 そんな私が好きなパンケーキは、2006年の開店当時からずっと一枚一枚手焼きしているのだそう。店名のGIVE ME CHOCOLATEには、小さなチョコレートをもらった時の、思わず笑顔になってしまうような嬉しい気持ちを飲食店でも感じてもらいたいとの想いが込められているそうだ。そんな想いはメニューにも現れている。店長の須藤さんは「メニューは全部手作りです。どのメニューも食べた時の嬉しい気持ちや特別感を大切にして考えています。メニューが沢山あるのも、色々なメニューの中から食べたいものを食べてもらいたいからなんです」と話す。

 私が好きな大きな絵についても尋ねたところ「あの絵で描かれているのは古町のお店なんです。以前古町のカレー屋さんで働いていたOGAWA YOHEI君が描いてくれました。彼は古町からのお客さんであり、遊び仲間で、今、東京で自分の店をやりながら絵を描いているんです」と教えてくれた。あの絵が古町の店だとはすぐには気づかなかったけれど、どこかノスタルジックな感じがしたのは、私の心象風景ではなく、実際に店に入ってお茶をした時の記憶や、店の前を通った時に見た記憶からくるものだったのだろう。

 店の入り口側の壁に飾られているスケートボードも気になっていた。

「あのスケートボードはオーナーの友人で、dugudagiiというアーティストさんの作品なんです。合成樹脂に草花を入れて固めていたり、本物のハンバーガーを使った作品もあるんですよ」

 入り口脇に飾ってある動物のスカルヘッドをモチーフにした作品もdugudagiiによるものだそう。トミー・ゲレロ参加のプロジェクト「LORD NEWBORN&THE MAGIC SKULLS」を彷彿させる作品だ。

 入り口周辺のサインペイントもカッコイイ。さり気なく描かれたジェリー・マウスにキュンとなる。

「このサインペイントは浜松のDUDE SIGNSの竜太さんが手がけてくれています。毎シーズン描き換えに来てくれているんです。竜太さん一人で描いているので、竜太さんが来ると、竜太さんを慕って手伝いに来てくれる人もいるんですよ」

 そういえば、パンケーキミックスのカードに描かれたパンケーキの絵はIZUMIDA LEEさんが描いたものだった。ギヴチョコに来れば本当に多くのアーティストの作品に触れることができる。

「会社にアパレル部門もあるので、オーナーの知り合いにデザイナーやアーティストさんが多いんです。お店でイベントをする時も、面白いと思うことをやってきました。ちゃんとイベントのメインとなる商品や作品を紹介しつつ、他とは違うアプローチでやってみたり。色々な人が来てくれたらいいなと思ってやっています。古町では溜まり場のようになりたいなと思っていました。万代でもそうなりたいと思っています。古町からのお客さまを大切にしつつ、新しいお客さまにも来てもらえるようにやっていきたいと思っています」と話してくれた須藤さん。

 ギヴチョコが万代へ移ってきたのは2017年。商業施設が多い万代への移転はギヴチョコにとって挑戦でもあったという。万代に移っても、店を訪れた時の楽しい気分は変わらない。今後、万代では、どんな絵が描かれていくのか楽しみだ。

GIVE ME CHOCOLATE ギヴ ミー チョコレート

新潟市中央区万代1−2−3コープ野村万代1F ☎︎ 025−385−6303

11:00−22:00 月曜日定休


04〈コーヒーショップ器〉のケーキセット

 陰翳礼讃。旧三越の裏手、営所通に陰翳礼讃という言葉が似合う素敵な店がある。店の名前は「コーヒーショップ器」。店主の関川さんが23歳だった1973年に鍛冶小路で開業し、今ある営所通に移ったのが1976年。元は印刷活版の会社が入っていたビルだったそう。私は店を訪れる度に、谷崎潤一郎の陰翳礼讃を思い出してしまう。やや暗がりの店内に窓から差し込む優しい光。特に冬の夕方は最高だ。窓から差し込む柔らかな西日と暖炉で暖まった店内。冬は暖を取りやすいようにと暖炉に近い西側の窓の前の席に座る。他の季節だと南側の窓側席がお気に入り。コーヒーショップ器へは、静かな店内でゆっくり読書をしたり、考え事をしたい時に訪れる。店主と店主の奥さま、最近だと入りたてのアルバイトの女の子が温かく迎えてくれる、アットホームな店だ。

 私はいつもブレンドを頼む。お腹の具合によってレアチーズケーキのセットにすることもある。コーヒーとレアチーズケーキがテーブルに運ばれてくると、まずはブレンドを一口すする。柔らかなコーヒーのアロマ、バランスの良い苦味と酸味、ほんのり感じる甘み。いつ、どんなシチュエーションで訪れてもホッとできる美味しさだ。レアチーズケーキはクリーミーでまろやかな味わいの中にほんのり感じる酸味がアクセント。添えられたソースと一緒にいただくと、また違った味わいを楽しむことができる。

 関川さんは開業前に東京でホテルを運営する会社のパントリーやコーヒー販売促進業務に携わっていたそう。とにかくコーヒーが好きで、自分の店では、お客さまに新鮮な豆を使って美味しいコーヒーを提供したいとの思いから自家焙煎を始めるが、納得のいくコーヒーを提供できるようになるまで30年近くかかったという。店で提供する料理も、丁寧に、食材を最後まで無駄にしないように作っているのだそう。だからだろう、関川さんの作る料理は滋味深くて美味しい。しかし、美味しく作ったコーヒーや料理よりも、それらを提供するスタッフが大事だという。

「余計なことは言わず、美味しい状態でサッと提供する。あとはお客さんの自由。好きなように召し上がって欲しいですね」という関川さん。なんとなく、この一言でコーヒーショップ器の居心地の良さがわかった気がする。

 店内にはグランドピアノが置いてある。コーヒーショップ器はジャズストリートの会場のひとつになっていて、不定期でライブも開催。関川さんは営所通に店を構える際、スペースがあるから絶対にピアノを置こうと決めていたという。ご自身で演奏はしないそうだが、それくらいジャズが好き。先日店を訪れた時、スピーカーから美しいピアノの旋律が流れてきた。曲はアントニオ・カルロス・ジョビンの”One Note Samb”。後日、関川さんが9月6日に野力奏一というジャズピアニストのライブがあると言って、野力さんのアルバム「Saudade」を聴かせてくれた。アルバムを聴いてすぐにアントニオ・カルロス・ジョビンの曲を弾いていたのは野力さんだということがわかった。野力さんは渡辺貞夫のセッションや、山下達郎のアルバムにも参加したことがあり、吉本ばなな原作の映画「キッチン」の音楽も手がけたという。私はキッチンを観に行ったはずなのに、観たのが10代だったからか劇中の音楽の記憶が全くない。そんなキッチンの劇中に流れていた曲”北公園”が素晴らしい。今更だが気づけて良かったと思う。もちろん、その日「Saudade」を買って帰ったのは言うまでもない。

 コーヒーショップ器が開業してから同じような歴史ある店が閉店したり、新しい店もできてはなくなっていった。しかし、コーヒーショップ器は古町の憩いの場として在り続けた。

「長く続けてこられた理由ですか?僕は誰よりも作ることが好きなんです。自家焙煎は香りや味わいをコントロールできるのが嬉しい。しかし自分でコントロールできるまでに30年近くかかりました。美味しいと思うコーヒーができないと許せない自分がいた。どうしたら納得のいくコーヒーができるのかとことん探りたい。そういう好奇心があったから長く続けてこられたと思います。あと、人が好き。お客さまは宝物。長い付き合いができてラッキーです。2世代で来てくれるお客さんもいるんです。長く続けていると、こういう嬉しいこともあるんですね。支えてくれ、好きなことをさせてくれた家族にも感謝しています」と言いながら笑う関川さん。コーヒーショップ器には、まだまだ古町の憩いの場として在り続けて欲しいと思う。

【写真中央下段】「Saudade」 野力奏一 with special guest 渡辺貞夫


コーヒーショップ器 コーヒーショップウツワ

 新潟市中央区営所通1-329 ☎︎ 025−229−5239

 10:00−21:00(17:00から食堂) 不定休


05〈delica&liquor conne〉のキッシュ

 私が水島町にあるシャルキュトリーが人気の店「delica&liquor conne」(以下 conne)を知ったのは同じビルに入っているdAb COFFEE STOREに行くようになってからだ。それまでは、ロシアチョコレートを買いに幸西にあるマツヤまで行くことはあったが、水島町方面へ足が向くことはまずなかった。だからconneを知ってからまだ1年半くらいしか経っていない。conneがランチをやっていると知ったのも最近だ。店は通りに面していない上に、通り側に看板も出していない。初めて訪れた時は、なんだか隠れ家のような素敵なお店を見つけた気がして嬉しかった。結構、素通りしてしまう人も多いのではないかと思ったが、いつ訪れても店内には楽しそうに食事をしている人たちがいて、いつ訪れても店主の長谷川さんも、若いスタッフも、食事をしている人たちも、皆いい具合に肩の力が抜けている。そこにはいつも、ゆるやかで穏やかな時間が流れているのだ。

 conneで人気のシャルキュトリーは自家製だ。夜に訪れる時はパテ・ド・カンパーニュやソーセージをつまみにナチュラルワインを楽しむことが多い。シャルキュトリーも美味しいがシャルキュトリーよりも私が今ハマっているのは自家製ベーコンを使ったキッシュ。自家製ベーコンやチーズの香りとコクに旨み、玉ねぎやアパレイユと言われている卵液の甘み、パート・プリゼと言われているバター香るサクサクのパイ生地が織り成す五重奏。キッシュはオーダーが入ってからオーブンで温め直してくれる。オーブンで温め直すことによって、表面のチーズも一緒にパリッとなる。このパリッとしたチーズの香ばしさがたまらない。きっと、シャルキュトリー好きな人だけでなく、チーズ好きな人にもたまらない一品のはず。それくらい、conneのキッシュは素敵に美味しいのだ。ランチでキッシュを頼むと何種類もの季節の野菜を使った惣菜の盛り合わせとパンが付いてくる。ある日のキッシュのランチは野菜の惣菜だけでなく、私の好きなウフマヨネーズに、チーズが香る粒つぶコーンが入ったケーク・サレまで付いていて、テーブルに運ばれて来た瞬間、思わず顔がほころんでしまった。

 長谷川さんがフランス料理とワインが気軽に楽しめるビストロスタイルの居酒屋を出そうと水島町に店を構えたのが2014年。それまでは創作料理を出す居酒屋で働いていたという。独立するにあたり、フランス料理で一番代表的なシャルキュトリーと言われるテリーヌやソーセージを店で用意したいと思い、星つきのレストランで働いたことのある先輩に教わったりしつつ、独学で勉強。夜に出しているカンパーニュも自家製で、お父さんと呼んで慕っているパン屋の知人に焼き方についてアドバイスをもらいながら改良を重ねてきたのだそう。シャルキュトリーやパンだけでなく、季節の素材を使った一品まで、手がかけられている。

「自家製にすると明らかに味が違うんです。シャリキュトリーと季節に合わせた野菜の惣菜、パンだけは店で作ってお出ししたいと思っています」

 長谷川さんはとにかく食べ歩きが大好き。趣味は食べ歩きというくらい好きだという。

「雑誌を見て気になるお店は、東京でも食べに行きます。ジャンクなものも好きですし、高級なお店で食べるのも好き。それぞれに、それぞれの良さがある。ただ高ければ良いという訳ではなくて値段に見合ったものを出しているかが大切。僕、お店で食べることが好きなんです。知らないまちで、ちょっと良さそうなお店に入って食べている時の高揚感が好き。美味しいものの味を探すのが好き。美味しいものを出すお店の空気感を味わったりとか、割とどん欲なんです」

 長谷川さんの話を聞いて、子供の頃、親に外へご飯を食べに行くぞと言われた時の胸の高鳴りを思い出した。外へ食べに行くというだけでテンションがあがったものだ。しかし、長谷川さんはただ食べることを楽しんでいる訳ではないだろう。良い店とはどんな店なのかを肌で感じ、自分の店に生かしているのだと思う。なぜなら、長谷川さんに店の内装や立地、メニューにワイン、食材について質問すると明確に答えが返ってくる。

 今後について伺ったところ、「独立しようと決めてから、先のことを考えてやっています。10年位かけてもう一店舗、総菜屋を持つことができればいいなと思ってやっているんです」と長谷川さんは語ってくれた。ゆるやかで穏やかな空間で食事を楽しむも良し、なかなか外食しづらい時は好きな惣菜を買って家で楽しむも良し。そんな日が近い将来訪れるかもしれない。とても楽しみだ。

delica&liquor conne デリカ&リカー コネ

新潟市中央区水島町3−23八千代マンション1F ☎︎ 025−250−5466

■lunch time 11:30−14:00 (L.O. 13:30)

■dinner time 月−木曜日 18:00−22:00 (L.O. 21:00)(最終入店 20:00)

金−日曜日・祝前日 ・祝日 18:00−22:00 (L.O. 21:00)

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