04. ようこそCinecittàへ。

文 / Akika Maruyama

西川美和「すばらしき世界」

 たった今このページに目をとめてくださっているみなさんは自分に揺るぎない信念、というとちょっと肩苦しいけれど、大切にしている何か、のようなものを持っておられるだろうか。たぶんこのフリーペーパーを手にとって、すみからすみまで熟読している方であれば、何かしらのこだわりやぶれない何か、というものをお持ちなのでは、と勝手に想像してしまうけれど。そんな私は生きるための大切な「何か」というものを恥ずかしながらあまり持ち合わせていない。ふらーふらーっと毎日を過ごしている。気が付いたら結構ないい大人になっていた。でもだからと言ってなんにも考えずにいられる訳でもなく、どうしたものかとぐるぐると思いにふけることも少なくない。めんどくさい人間なのだ。だからなのか、私は映画を観るということでこのめんどくさい「ぐるぐる」のヒントを探しているのかもしれない。日常という狭い世界から少しだけ外に出て、西川美和監督の言葉を借りるならば「見たくないものを、ちょっとだけ見る」ということをしているのかなと思っている。(”ちょっとだけ”というのがポイント)

 西川美和監督「すばらしき世界」も取り立てて大きな事件が起こるわけではなく、ヒーロー的存在が大活躍するわけでもない。人生の大半を裏社会と刑務所で過ごした男の再出発が描かれている。刑務を終えた男三上がカタギになると誓う。その真っ直ぐな正義感と怒りの感情を抑えきれない荒っぽい性分、またその三上の人間味に手を差し伸べる人々。身近にいてもおかしくはない、でもなかなか出会うことのない男のお話。

 それでもやっぱりすばらしかった。見たくないものを”ちょっとだけ”見ることができた。

生きるって何?

何が正しくって何が間違ってる?

自分に正直なだけなのに生き辛いこの世の中。観終わった直後、そんな割り切れなさにモヤモヤ~っとした感情が心の中に残る。(このモヤモヤ~も私が映画を観るにあたり、意外とプラスのポイント)

「今も刑務所から出てくる人はたくさんいるはずだけど、僕らの周りにはあまりいないじゃないですか。彼らはどこにいるんだろう。社会には僕らの目に見えない部分がいっぱいあるんだと感じますね」

西川監督と六角精児さんの対談での六角さんの言葉。本当にそう思う。元受刑者とか元ヤクザとか、わかり易く社会から外れてしまった人達もそうだし、人のなりや心も見えない(見ない)ところはそこかしこにたくさんある。人は人を救えない。でも救いはある。捨てたもんじゃないこの世界。自分に正直に生きていくことができるのならばこんなに幸せなことはない。それが難しいのなら、この広い空の下、広い空を見上げることができるだけでも幸せなのだろうか。

 この映画を観て、あのめんどくさい「ぐるぐる~」を「モヤモヤ~」っと、さらに思いめぐらす醍醐味を味わう私であった。

0コメント

  • 1000 / 1000