つながる。つづく。

1. パンとワインと三弥

2. SAKURA KOMACHI

3. 古町アパートメントママ部〈APARTMENT〉

4. ISANA

つながる。つづく。

私たちが暮らす街がどんな街であって欲しいかと考えた時に思い浮かんだのは、

「つよく・やさしく・おもしろい街」

でした。

困難なことが起きたとしても、街の人たちが協力し合って乗り越えられる”つよさ”。

困難なことが起きたときに、困った人たちに手を差しのべられる”やさしさ”。

色々なところで、色々な人たちが、色々なことに夢中になれる”おもしろさ”。

改めて、人と人とのつながりは大切だなと思いました。

私たちは何かしら人とつながって生きている。

街で買い物をしたり、食事に出かけたときに、店を介して作り手のことを知ることが多々あります。作り手の想いを知ることで商品に愛着が湧いてくることもしばしばあります。

今回は多数ある「つながる」の中から、”つながる”を”つづけている”4つの店を紹介いたします。


1. パンとワインと三弥 

  パントワイントサンヤ

大切なものを通して人の顔がうかぶ店。

 まだ明るい時間帯なのにアペロしたくなることがある。アペロするなら美味しいお酒と美味しい料理のある店がいい。そんな気分の時に足が向くのは万代にある「パンとワインと三弥」(以下 三弥)だ。

 重厚感のあるドアを開けて店内に入ると目に飛び込んでくるのは、写真集などが並ぶトラディショナルな木製の本棚に、横に連なる壁面のグリーンウォール。入口のすぐ脇を見ると、冷凍ショーケースの中に色とりどりのジェラートが並び、その隣の陳列台には焼き色が美しいクロワッサンやスコーンが並ぶ。いつも席に着く前から誘惑が始まるのだ。買い物で万代に来た時に、ちょっとコーヒーで一息入れようと三弥を訪れるのだけれど、席についてメニューを見ると、ついついワインと料理を頼んでしまう。私のお気に入りはクロワッサン、ボルシチ、ワインの組み合わせ。バターが香るサクサクのクロワッサンに、丁寧に下処理された牛すじ入りの旨味とコク、野菜の甘みが感じられるボルシチ、そして作り手やビン毎に味わいが異なるナチュラルワイン。どれも口に含むと口福な気分になり、時々、美味しいという心の声が口から漏れ出てしまう。そういう人は私だけではないようだ。カウンターで美味しいなと呟く人を何回か見かけたことがある。

 オーナーの佐藤静也さんが三弥をオープンさせたのは2020年6月25日。コロナ禍でのオープンなだけに、美味しいお酒と料理に美味しい空間、美味しい人たちが集う店がオープンしたことは、私たちを明るい気持ちにさせた。

「三弥ではカフェのように気軽に利用してもらえるお店にしたかったんです。東京では信頼の置ける店同士がコラボして出店しています。新潟にはそういうお店がない。僕も、いろいろな人たちとチームで仕事がしたいと思ったんです。商業施設が建ち並び人が集まるこの場所でマイノリティーなことをやりたかった。なかなかこんな場所に出店はできません。三弥に商品を置いて、三弥をアンテナショップに利用してくれたら良いなと思ったんです。今回コラボした人たちは、この場所に商品を置く価値がある人たちだと思っています」

普通であればコラボレーションした店の名前はメニューに記載されるだけのことが多いが、三弥は店の正面の窓ガラスにコラボレーションした店の名前を大きく書いている。それはコラボレーションした店への敬意でもあったのだ。

 店名にも掲げているパンとワイン。佐藤さんがコラボレーションの店ができると確信したのは、昔からの友人である石窯パン工房サフランの社長、山崎さんがいたからだという。

「お店をオープンするにあたり、具沢山のオープンサンドを提供したいと思いました。山崎さんはいろいろな所でパン作りを学ばれていて、ハード系のパンも得意なんです。オープンサンドのパンはフォカッチャを使用しています。料理の邪魔をしなくて料理と一緒になるようなパン、料理の水分を吸ってくれるようなパンを開発してくれました」

 ナチュラルワインやクラフトビールをはじめ、アルコール類は海外のものも豊富だ。ワインについては兄弟店の「煮込みと酒と錦弥」(以下 錦弥)の時から扱っている山形のグレープリパブリックの他に新潟のキヨワインズも扱っているが、三弥では海外のワインを中心としたセレクトにしているという。海外のワインはレベルが高いため、海外の良いものを知って、もっと日本の良さを知りたいと思ったのだそう。錦弥では純国産のものだけを扱っているが、三弥では海外のものと日本のものをミックスするなどボーダーレスだ。異国の料理に和の食材を加えたり、料理やデザートを盛りつける器が和食器だったりとオリエントを感じさせる。

 三弥はクールな内装とは対照的に、スタッフの皆さんが温かい。お客さまだけに温かく接するのではなく、スタッフ間でも温かい。皆んなに平等。だからお店にいる人皆んなが温かい気持ちで過ごすことができるのだろう。佐藤さんの人を大切にする気持ちの現れではないだろうか。人を大切にする気持ちは、商品の先にある作り手にも同じ事が言える。作り手の思いを大切にし、作り手の代わりとなって商品説明できる知識を身につけ、作り手と同じ気持ちで商品を管理し提供するように努める。

「三弥はコラボしているお店の大事なものをちょっとずつ分けてもらってできたと思っています」

 三弥がオープンして約1年。まだまだやりたい事ができてないという佐藤さん。佐藤さんの理想が実現した時、私たちの目にはどのように映るのだろう。今後、三弥がどんな店になっていくか楽しみだ。

1:GRAPE REPUBLIC グレープリパブリック

”Made of 100%Grapes”のワイン。山形県南陽市には今では市場であまり見かけなくなったデラウェアを作っている農家が沢山あり、その農家を救済する目的もあって立ち上げられたワイナリー。ワインを発酵させる際、無農薬のブドウでなければ健全な発酵ができないため、契約農家に無農薬でブドウを育ててもらい、グレープリパブリックがそのブドウを買い取っているという。三弥ではスタッフ皆んなでグレープリパブリックまで赴き、オリジナルのキュヴェ作りも行なっている。

2:KIYO wines キヨワインズ

キヨワインズの坂爪清志さんは醸造家になるためにニュージーランドで修行し、地元新潟でワイナリーを創設。完全無農薬でぶどうを作るビオディナミ農法でワイン作りを行っている。月の動きなども意識した農法のため、非常に手間暇かけて作られている。

3:

三弥で人気の「モンブランプリン」。生クリームをふんだんに使った固めのプリンの上に、カリカリ、サクサクのワッフルクランブルをのせ、国産栗100%の栗ペーストをたっぷりとトッピング。通常モンブランは3mmから5mmの太さだが、三弥はオリジナルマシーンを開発し、極細1mmに仕上げている。栗本来の旨味と香りが楽しめる一品だ。

4:Lucy Margaux ルーシー・マルゴー

5:Omnipollo オムニポロ

1. Hygge plant shop ヒュッゲ プラント ショップ

田上町にあった店が西区内野に移転。店内のグリーンウォールを手がける他、観葉植物の販売も行っている。

2. HELLEBENDERS &CO ヘルベンダーズ アンド コー

新潟出身で東京で活動しているアパレルブランド。三弥や錦弥のTシャツやエプロンなどのユニフォームを手がけている。

3. cannelé de CHIANTI カヌレ・ド・キャンティ

三弥で人気のモンブランプリンは、カヌレ・ド・キャンティの川又さんの協力なしに商品開発やマシーン開発はできなかった。店内ではカヌレ・ド・キャンティのプレーンのカヌレをいただくことができる。

4. ササゲ工業

燕市で大正15年創業の金属加工会社。店内で使用されているカトラリーとトレイは懐かしさと新しさが同居するデザイン。熟練職人の仕事と感性によって仕上げられている。

5. AMEYA AISU アメヤアイス

加茂で人気のAMEYA AISU。以前、錦弥で行われた日本酒とアイスのイベントでは好評を博す。季節の果物を使ったジェラードなど常時6種類用意。

6. 木村硝子店

東京で明治43年創業の老舗硝子メーカー。カリクリスタルを使用した硬質で割れにくく、薄い飲み口が特徴のワイングラスは店内で使用の他、販売も行なっている。

7. 石窯パン工房サフラン

オープンサンドで使用のフォカッチャの他、クロワッサンとスコーンも毎日店内で焼いて焼きたてを提供。不定期でサフランのパンをALL 100円で販売している。

8. dAb dAb COFFEE STORE ダブ コーヒー ストア

水島町で人気のdAb COFFEE STOREの小林さんにコーヒーの監修を依頼。東京のLittle Nap COFFEE ROASTERSのコーヒー豆を使用し、世界最高峰のマシーンで淹れている。

9. 越後古材

積雪に耐えた良質な材木をリユースする古材事業、環境ビジネスを展開する越後古材。三弥ではアメリカの線路の枕木を使ったプレートの製作を越後古材に依頼。カトラリーを置くために打たれた真鍮の釘はササゲ工業が加工。


パンとワインと三弥

新潟市中央区万代1丁目1−22

☎︎ 025−385−7899

11:00−20:00

水曜日定休


2. SAKURA KOMACHI 

      サクラコマチ 

新鮮な花を届けるために。

 本町市場の中核をなす商店街、ぷらっと本町を歩いていると、店先に並ぶ色とりどりの季節の花に目が留まる。店の名は「サクラコマチ」。冬から春にかけてはチューリップが、初夏から冬にかけては大輪のユリの花が、店先だけでなく商店街までを明るくし、彩りを添えている。サクラコマチでは、切り花だけでなく、鉢や苗、枝ものに球根、ハーブなど、扱うものも様々だ。

 私は仕事帰りにサクラコマチに立ち寄ることが多い。寒い冬、店先にチューリップが並び始めると、「もう春の花がある」と嬉しくなって買って帰ったり、春になり、店先にフリージアが並び始めると、フリージアの香りが好きな私は嬉しくなってレジに向かう。そして、帰りのバスの中で時どき鼻を近づけて、クンクンと香りをかいでは悦に入る。夏はユリの花をヨーロッパの野生のユリのようにナチュラルに生けたいと買って帰ったり、秋になると球根が店先に並ぶので、来春の鉢植えや水耕栽培は何を咲かせようか計画したり、カレル・チャペックの「園芸家の一年」ではないが、一年を通して何かしら花のことを考えているのである。

 サクラコマチの創業は1999年。代表の袖山博史さんが卸から始め、今ある本町に店を構えたのは2008年のこと。今では西区のファーマーズ・マーケット「いっぺこ〜と」と東区の農家の直売所「とんとん市場 松崎店」に直売所があり、秋葉区にはフラワーセンターもある。自分の店を構えようと思ったのは、卸をしていた時に、ちゃんと接客がしたいと思ったからだという。

「花の育て方や花の良し悪し、組み合わせなど、ちゃんと説明しないとわかってもらえないことがあります。自分の店を持って、もっとじっくりと接客がしたいと思ったんです」

花の品揃えに関しては、美しいのは当然のこと、日持ちにバラつきがあるので、できるだけお薦めできる花、抑えた価格の花を三つの市場を見比べながら、時季ごとのベストの生産者から仕入れるようにしているそうだ。

 サクラコマチでは市場からだけでなく、生産者から直接仕入れて、花の販売を行なっている。切りたての花を売りたくても市場流通ではどうしても4・5日かかってしまう。また生産者の9割が市場に出荷。市場は箱詰めしたものを出荷するだけなので、手間のかかる個々の取引を敬遠する生産者も少なくないという。そんな中、袖山さんは「新鮮な花をお客さまに届けたい」との思いから、一軒一軒声をかけて生産者を募っている。このようにして生産者から直接仕入れた新鮮な花は、市場流通よりも日持ちが全く違うのだそう。

夏になると店先を埋める大輪のユリ。トラック1台分のユリを週3回も仕入れているという。

「当店ではユリが圧倒的に人気なんです。市場で仕入れたユリは一日で咲いてしまうのですが、直接仕入れたユリは時間をかけて開花していきます。夏の間も長く楽しめるので、沢山のお客さまが喜んでくださっています」

切り花の楽しさは、日常の中で変化を楽しむことができる点だと思うが、やはり鮮度が良くないと、こうはいかない。一度サクラコマチでユリを買った人は、花の質の良さを実感し、またユリを買い求めにやって来るのだろう。

 店を訪れた時に、何回か袖山さんの奥さまがお客さまのブーケを作っている姿を見かけた。どのお客さまも「かわいい」と喜んでいた。私も奥さまにブーケを作ってもらったことがあるが、予算内でかわいく仕上げてくれて嬉しかったことを今でも覚えている。サクラコマチではブーケを作る際、お客さまとの会話を大切にしているという。

「お客さまの中にはイメージを言葉で表現できない人が少なくないんです。会話をしながら少しずつ聞き出して材料を集め、だんだんと形を作っていくようにしています」

2月からサクラコマチでは作りおきのミニブーケを販売している。どのブーケもサクラコマチらしく、シンプルでナチュラルなものばかりだ。

「ブーケは、古町にあったシューアイボリーさんにお願いして作ってもらっています。独立する前に一緒に働いていた先輩なんです。今まで作りおきのブーケは販売していませんでした。それは、個々の趣味趣向が違うことと、鮮度が悪い花を置きたくなかったからなんです。シューアイボリーさんだったら任せられると思いました」

 仕入れを担っている袖山さんは、四季が変わる頃、誰よりも早く時季の花を見た瞬間、嬉しさを感じるという。花の時季は短いので、短いスパンでの品揃えは企画のオンパレード。旬の花をどれだけ仕入れてどのように組み直すかを考えることが最も楽しいという。そのせいで、休みの日も花のことばかり考えてしまい、早く仕事がしたくて堪らないのだそう。根っからの花好きで、花に関わる仕事が天職なのだろう。そんな袖山さんは、最近、花の文化が変わってきていることを危惧している。観葉植物やドライフラワー、プリザーブドフラワーを好む人が増え、生花に触れたり愛でたりする人が減ってきていると感じるそうだ。

「この先どうなるかわかりませんが、これからもお薦めできる花だけを仕入れ、鮮度の良い花だけを売る、これをしっかりやっていくだけです」と語ってくれた袖山さん。

 日常に花がある暮らしは、季節を感じたり、花を愛でる心の余裕を生んでくれる。私は、美しいもの、きれいなものは廃れないと信じている。

SAKURA KOMACHI

新潟市中央区本町通6−1106−3

☎︎ 025−224−5557

9:00−19:00

定休日なし


3. 古町アパートメントママ部〈APARTMENT〉

       フルマチアパートメントママブ 〈アパートメント〉

APARTMENTから生まれたママたちの癒しなるコミュニティ。

 子どもを出産するとママも赤ちゃんも初めてのことばかりで、いろいろなことが気になって、これでいいのかな、大丈夫かなとあれこれ考えてしまう。たまに赤ちゃんがいるママ同士が会うと、育児の悩みや成長具合などを聞けて気持ちが楽になる。

コロナ禍で人との交流が難しい今は尚更、ママ同士の交流は貴重だ。

 前回のVOLUME 03にも登場した流行に左右されないデザインの雑貨や家具を扱う「APARTMENT」には、慣れない育児に奮闘するママたちの憩いの場となる「古町アパートメントママ部」(以下 ママ部)がある。

 ママ部の発足は2013年10月。オーナーの奥様でありスタッフでもある二宮里美さんが第一子を出産し、新米ママを対象とした集まりに参加した時に、参加者と育児の悩みや成長具合を話せたことで気持ちが楽になった経験から、そういう場が作れたら良いなと思ったことがきっかけだったという。

「家でずっと赤ちゃんと一対一で接しているママたちに家から出てきて気分転換してもらいたいとの思いや、もっと多くの人に気軽にお店に立ち寄ってもらいたいとの思いもあって、ママ部を立ち上げたんです」と話す里美さん。

 ママ部では定期的に行っているベビーマッサージまたはヨガと撮影、ランチが付いたイベントの他、現在はコロナの影響でなかなかできないが、リトミックや英会話、ガラス絵のイベントもある。また時々遠足でぶどう狩りに出かけたり、桜撮影会をしたりと屋外の催しも行っている。「イチブンノイチ」では、生まれてから100日目までの赤ちゃんを等身大で写真におさめてくれる。里美さんが実際に体験して良かったイベントを取り入れたり、講師の先生からの紹介でイベントが増えていったそう。どの回もイベントの参加者がみんな良い笑顔だ。

「毎回、講師の先生が楽しく教えてくれたり、カメラマンさんがお子さんと話して緊張をほぐしながら撮影してくれて、良い場の雰囲気を作ってくれているんです。参加者はお友達同士だったり、イベントで仲良くなった方同士で参加されたり、お一人で参加されたりと様々ですが、お一人で参加されている方も、赤ちゃんのことをきっかけに、他の参加者と楽しくお話しされているようです」と教えてくれた里美さん。

和やかな雰囲気でみんなが楽しんでいる様子が伺える。みんなが笑顔で楽しめるのは、イベントを支えている講師の先生やカメラマンさん、里美さんの気配りもあるからだろう。

 ランチは近隣で人気のレストランからデリバリーしてもらっているそうだ。毎回毎回、美味しそうで栄養のバランスも良さそうなものばかり。

「赤ちゃんがいると外食も難しいですし、イベントは午前から始まって12時過ぎに終わるので、家に帰ってからご飯作りというのは厳しいと思います。美味しいものを食べてリフレッシュして欲しいですね」

 参加者からは「マッサージしたらぐっすりお昼寝している」や「他の人とお話しできて楽しかった」、「美味しいご飯が食べられて嬉しかった」との声が多いそうだ。ママ部が発足して8年目。長く活動を続けていると、職場復帰した参加者が休日にお店に遊びに来てくれたり、一人目が生まれた時に来てくれた人が二人目が生まれた時にまた来てくれたり、イベントを楽しみにしてくれている人たちが沢山いることが嬉しく、励みにもなるという。

 コロナ禍で家にこもりがちになっているママも多く、尚且つ、支援センターも活動を自粛している今の現状。「こういう状況だからこそ何かやってあげたい。人数を減らしてランチもお持ち帰りにしたり、工夫しながらもママたちが集まれる場を提供したいと思っています」と笑顔で語ってくれた里美さん。これからもAPARTMENTがハブとなり、温かい人と人とのつながりが広がっていくだろう。

イチブンノイチ

「赤ちゃんてすぐ大きくなりますよね。新生児の赤ちゃんを抱っこさせてもらうと、ものすごく小さくて驚くことがあります。赤ちゃんってこんなに小さかったかな、そんな気持ちを残せたら良いなと思いました。生まれたばかりの頃に感じたことや思ったことを思い出してもらえたら良いですね。誕生日などの記念日には一緒に並んで写真を撮ると成長もわかりますよ」

APARTMENT

新潟市中央区西堀前通4番町738−1

☎︎ 025−225−1950

10:00−18:00

第1・第3木曜日定休


4. ISANA

  イサナ

木をいかすために。

 沼垂テラスで人気の「ISANA 喫茶室」。喫茶室で使われている家具は全て「ISANA FURNITURE」で作られたものだ。美しい佇まいはそのままに、9年間使い込まれた味わいが魅力を増している。以前、VOLUME 02でISANAを取材した時に、オーナーの中川雅之さんから「今後は新潟の木材を使って家具を作りたい」という話を伺った。身近な所にナラやブナなどの木はあるのに流通していないために手に入らない。乾燥工程や流通量の安定化、小ロットで広葉樹を使える仕組みの構築が課題だと語ってくれた。あれから約1年半。SNSを通して、ISANAが新潟のブナ材(スノービーチ)を使用したフェザークッションオットマンを完成させたと知った。木材やフォルムの美しさはもちろん、クッションカバーのカラーや風合い、ベルト使い、ハンドルのラタン使いなど、細かいところにもこだわりが感じられ、ISANAらしいカッコイイ家具だなと思った。

 スノービーチに出会ったきっかけは県の林政課から”林業にいがた”のコラムを書いて欲しいとの依頼からだったという。

「コラムの依頼で知り合った林政課の方に何か困ったことはありますかと聞かれ、広葉樹の県産材はあまり売っていないため、どこで買えばいいかわからないという話をしたところ、スノービーチの活動をする人と繋げてくれたんです。その後、スノービーチの活動をしている建築設計士の方が来てくれて、魚沼の森に入ってブナを間伐し、乾燥させたりといろいろ試みているので見にきませんかと誘っていただき、そこからスノービーチへ繋がっていきました」

 魚沼へ間伐を見に行く前は、地産地消ではないけれども地元の木を使えれば良いなというくらいの気持ちだったそうだ。ところが実際に魚沼へ間伐を見に行って、スノービーチの活動をしている方たちの気持ちに驚いたという。

「実際に何度も里山に連れて行ってもらって、現場で林業に携わる森林組合の方々の試行錯誤、関係する製材所さんの製材・乾燥工程の苦労、建築家やデザイナー、家具・木工製品の製造するみなさんの何とかしたいという情熱に、心打たれました。みなさんほんとうに情熱がある。それぞれが手弁当で、リスクを負いながら真正面から実践されている活動だったのです。材料として県産材を使えたらいいな、なんていう単純な動機では追いつかない、問題の大きさや根深さに襟をただされる思いでした」

 スノービーチの活動は2015年から新潟大学・農学部の紙谷名誉教授が主導して行っているプロジェクトなのだそうだ。環境問題、森林保全、雇用問題などの課題があるが、一番重要なのは雇用問題だという。林業に携わる人が少ないから森が守られない。林業では儲からないため携わる人が少ない。森を守るには間伐という作業が必要だが、今まで間伐材はそのまま放置して腐らせているだけだったそうだ。文字通り価値として埋もれていた間伐材を、急斜面の山から運搬し、きちんと製材・乾燥させる。商材として育てられていた山からの切り出しではない間伐材を、商用利用するには、並々ならぬ努力が必要とされる。そうやって手塩にかけて作られた板材を、大工や家具職人、デザイナーの方々が魅力ある製品に加工して、はじめて間伐材に価値がつく。きちんと売れるものにし、市場から支持されることが大事。環境問題は経済と切り離されがちだが、経済があって環境が守られ続いて行くのだという。

「”川上から川下へ”が重要なのだと知りました。川上で林業をしている人たちがきちんと切り出したものを川下である加工業者が価値のある形で流通させ、エンドユーザーに届ける。そうすれば僕たちもきちんとした対価で木材を仕入れることができます。間伐材と間伐材でないものでつくった製品の間に、明らかな差をつけて表現するのはとても難しいけれど、川下にいる僕たちはそうした価値付けを担う役割であると思うので、少しずつ頑張りたいです。もちろんISANAのような小さな家具工房だけでどうにかなることではない、大きな課題なので、たくさんの同業の方々と力を合わせて取り組むべきことなのだとも感じています」

 以前、課題に挙げていた乾燥工程の安定については、最近はだいぶ安定していきているそうだ。長岡にある志田材木店が林業の未来のために熱心に研究に取り組んでくれているおかげだという。同じく課題に挙げていた流通量の安定については、間伐は計画的に行われているので流通量が増えることはないそうだ。

そもそも間伐は商材にするために木を育てていない。毎年エリアを変えて間伐を行っているため、エリア毎に日光の当たり具合が異なり、同じ質の木を手に入れることは難しいのだそう。伐採した木を薪材にするか家具材にするかなどの選別も毎年変えながら行っているという。

 では、同じ質のものを手に入れることが難しい間伐材を、どうやって家具にしていくのだろうか。

「同じものがないことを個性として活かすようにしています。もともとブナは硬くて衝撃にも強く、粘りがありますが、反りやすい材質でもあるんです。扱いにくい木材。硬いので刃物も欠けてしまいます。スノービーチは割れが入っているものもあり、強度的にも考えることが多い。工程が難しいんです。ひと昔前までは割れなどは欠点として敬遠されたり、売れないとされてきましたが、今では割れなどを木本来の姿が出ていて良いと個性として受け止めてくれる人が増えてきました」

 スノービーチを使った家具の魅力は、ブナ本来の密な材質により醸し出される上品さと、スノービーチのテクスチャーの荒々しさの両方を併せ持っているところだという。そういう点でスノービーチは椅子に向いているのだそう。現在、ISANAでスノービーチを使用している家具はオットマンの他にハイバックソファとチェロチェアの3種類。

「今後もスノービーチを少しずつ取り入れていきたいと思っています。秋にISANAは10周年を迎えるので、2階のスペースをショールームにして、お客さまにより多くの作品を見ていただけるように展示を増やしていきたいですね」

 間伐材のスノービーチを扱うのは簡単なことではない。それでも魚沼の森について100年、200年先のことを考えて取り組んでいる人たちがいることを知った以上、ISANAで何かできることはないかと考えている中川さん。作られた3種類の椅子には魚沼の森を思う人たちの想いと森の風景が宿っている。

ISANA

ISANA 喫茶室

新潟市中央区沼垂東3−5−22 [沼垂テラス商店街内]

10:00−18:00 

火曜日・水曜日定休 

日によって営業時間が16:00までの場合あり

ISANA FURNITURE

新潟市秋葉区古津1840

事前予約によりご案内が可能

☎︎080-5029-2941(担当:中川)


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