青人窯
品格と素朴な表情を併せもつ ニイガタメイドの器。
My Favorite Thingsの「Vase&Flowers」に登場した私が"モランディの器"と呼んで愛用している花器は沼垂にある「青人窯」で買ったもの。青人窯では主に白系の器に手が伸びてしまう。青人窯の白は乳白色を少しくすませた色をしており、見ているだけでも和む。店主であり作家の大山育男さんは「青土という土があります。元は白い土なのですが鉄分が還元されることで灰色だけれどもやや青みを持った土になるのです。うちの白い器が磁器のように真っ白でなく少し青みのある灰色をしているのは蒼土を使用しているからなんです。また、スノーグレー釉と名付けた釉薬を使っています。スノーグレーは雪の影の青さをイメージしています。現代人は雪の色といえばオフホワイトを思い浮かべますが、江戸時代までは雪の影の色を雪色と言っていたそうなんです」と教えてくれた。スノーグレー釉とは、雪国新潟にふさわしい素敵なネーミングだ。
大山さんは轆轤で器を作りたくて陶芸の道へ進む。修行時代にかなりクラシックな技術を学んだ。轆轤では手廻し轆轤とよばれる人力ならではの柔らかい形や天然原料を用いたテカリを避けた滋味のある釉薬などに古典的な価値観が活かされている。陶芸はあくまでも器を作るための技術。しかし、技術だけを身につけてもいい器は作れない。美術的なことを知らなければならない。結果として一見普通の器だったとしても、美的な空気を吸った上で作らなければいい器にはならないとの思いを強く抱いている。私が“モランディの器”と感じたのもあながち間違っていないかもしれない。
目指すのは、誰もが認める新潟焼。
新潟は陶芸の産地でない為、陶芸用の土はないと思ってしまうが、実は土はある。瓦で有名な安田には雪国用の高温で焼く窯があり、新津では赤煉瓦を焼いていた。新潟で焼物が栄えなかったのは、新潟が港町だった為、他所から焼物が安価で手に入るようになったからだと言われている。釉薬に用いる灰に至っては、農業大国なので農産物を原料とした灰はいくらでも手に入る。また、フォッサマグナが横断している新潟には火山灰まである。
大山さんは青人窯を始める時から新潟焼をやっていこうと心に決めていた。新潟原料をどこまで使えるか、どう使うかというのはメインの一つになっている。
「新潟のお薦めの観光名所を聞かれると迷ってしまいますが、食べ物は間違いなく美味しい。日本各地に既に有名な陶器の産地がある為、新潟焼を提案するのであれば食と関連させて提案しないと難しいと思います。新潟原料の灰と関連させたら食との説得力が増すと思うのです」
新潟原料を使って器を作る際に灰が欠かせない。青人窯では秋葉区の柿の木の灰を調合した“柿灰釉”や南魚沼の火山灰を用いた若草色の“魚沼緑灰釉”を使用している。新潟特産の桃やル・レクチェなど様々な果樹の灰で試してみたが、一番大山さんの感覚にしっくりきたのが柿灰だった。火山灰は灰自体の美しい緑色が大山さんの心を捉えた。大山さんは、灰が一番面白いという。灰にはコントロールが効かないところがあり、同じようにやっているつもりでも、木の部位や葉っぱの有無、年によっても灰の状態が違ってしまうそうだ。土については酒器の一部で秋葉区や五泉、上川の土を使用。伝統的な手轆轤によって原土の風合いを引き出している。
大山さんは三川の穴窯で年に一回作陶している。私は穴窯で作られた器に大地の大らかさと力強さを感じた。穴窯では普段使用している土ではなく信楽の土を使用し、灰が被るのに任せて作っているそうだ。基本的には余計なことはせず、土と火だけで焼く。登り窯は熱効率がよく、ほぼ灰が被らないのに対し、穴窯は熱効率が悪く、灰が沢山降りかかる。登り窯の方がいいのではないかと思ってしまうが、むしろ穴窯の方が面白い作品を焼くことができるそうだ。火の向きにより表と裏がはっきり現れ、魅力的な作品が焼ける。手間隙かかる薪窯は現代人にとって面倒なものになってしまった。だからこそ薪窯でしか焼けないものを焼きたいと大山さんはいう。
次の世代へつなげていくために。
「三川にも陶芸で使える土がある。三川土を穴窯で焼けば間違いなく新潟焼と言えます。普段やっている新潟原料を使ったものを新潟焼として出した時、少なくとも誰が見ても絶対に新潟焼だと言い切れるラインを確保しないと普段やっていることの説得力が持てない。穴窯で本物の新潟焼を完成させてからでないと新潟焼とは言えないと思っています」
新潟で3代100年続く窯元は阿賀野市保田の庵地焼(旗野窯)くらい。個人作家で立派な方はいるが、新潟焼というのはない。だからこそ新潟焼をやってみたいという大山さん。
「本当に僕が新潟焼を提案した場合、3代100年続いて欲しいと思っています。もっと説得力のあるものを作れたら、いつか誰かが僕の後に続いてくれたらいいなと思っています」
海と山に囲まれ、日本一長い川が横断する風光明媚な新潟の地で、地元の美味しい食材を使った料理とお酒を新潟焼の器で堪能できたなら、こんな素敵なことはない。新潟焼が根付いていくことを願っている。
青人窯 アオトガマ
陶芸工房・体験教室・店舗
新潟市中央区沼垂東3-5-24 沼垂テラス商店街内 ☎︎090-2246-1687
営業日:金〜日曜 10:00〜17:00
Instagram:@aotogama
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