letter from the field
植物は心の友。ありのままで美しい、自由な姿の植物との暮らし。
My Favorite Thingsの「Vase & Flowers」に登場するピッチャーに花を生けてくれたのは「letter from the field」の佐藤さゆりさん。私はさゆりさんが作るブーケや生ける花が好き。庭から摘んできた花をさっと生けたようなナチュラルさと可愛らしさ、美しさがある。いつかさゆりさんにブーケをお願いしたいと思っていたのだが、今回は願いが叶い、愛用のピッチャーに花を生けてもらうことができた。しかも贅沢なことに、さゆりさんがハーブや花を育てている畑へお邪魔し、畑や実家の庭から摘んできた花材で生けてもらった。ジニア、フジバカマ、ホトトギス、イヌタデ、チェリーセージ、ホーリーバジル、紅葉したブルーベリーの葉など、一つ一つの佇まいが可愛らしい。しかし、さゆりさんがそれらをピッチャーに生けると途端に美しい表情を見せるから不思議だ。
さゆりさんは南区東萱場にある実家の畑でハーブや花を育てている。実家は14代も続く「阿部農園」を営んでおり、桃や葡萄、ルレクチェ、お米を自然に沿った方法で栽培している。阿部農園の果物は果物本来の味がして美味しい。私が阿部農園を訪ねるのは今回が初めて。バスを乗り継ぎ、阿部農園へ向かった。始発の青山から終点の月潟まで50分くらい、月潟から阿部農園までは歩いて15分くらい。途中、中ノ口川を渡る。川に陽が降り注ぎ、キラキラ輝く川面を眺めなら、なんてな自然豊かな美しいところなんだろうと思った。阿部家の母屋の入り口前で、伸び伸び育った背丈の違うピンク色のジニアとさゆりさんが私を明るく迎えてくれた。ピンク色のジニアとさゆりさん、どことなくチャーミングな佇まいが似ている気がする。
大事なのは素材。ありのままの姿を愛でる。
その後、私はさゆりさんの案内で畑へ向かった。すでに大体の花材は用意してくれていたが、途中で可愛い花材を見つけると鋏を取り出し摘んでいくさゆりさん。
「このジニア、可愛いですよね。よく見ると花びらが足りなくて、一般的には市場に出せない花なんです。でも私はそういう花を選びます。同じ株から出ているけれど小さい花や曲がっている花とか。そういう花を加えると面白い。虫が食べて穴があいた葉っぱも選びます。穴があいた葉っぱ、可愛いですよね」
摘んだ花材を整えながら、そう話すさゆりさんの表情は楽しそうだ。
そうこうしている間に畑に到着し、さっそく花を生ける準備を始める。作業場の外には木製のテーブル、そのテーブルのすぐ後ろには大きな木がある。さゆりさんは大きな木を見上げ、「こんなところに野バラが生っている」と赤い実を指さして喜ぶ。私は野バラの実と言われてピンとこなかった。遠目で見ると赤スグリのようにも、南天のようにも見える。また更に上を見上げると鳥の巣を発見。辺りを見渡すと遠くに山々が見える。少し意識を変えるだけで、こんなにも身近に自然があるのだと気付かされる。そんな自然豊かな場所で、さゆりさんは畑から摘んできた花材をピッチャーに生け始めた。季節感を出すために外にある景色を描くように生ける。デザイン的な部分にこだわりはない。
「畑から持ってくる花は畑で咲いている時間が長い場合もあるので鋏を入れた瞬間からいつまで持つかわかりません。一瞬の場合もあります。花を持たせようとするよりは、花に触れて変化していく過程を楽しむことの方が大事。花に触ると香りますし、また一回生けた花も生き返るんです」
美しいと思う自分の感覚を信じる。
子どもの頃から花を触ることが好きだったというさゆりさん。子どもの頃は大家族で、曽祖母、祖母、母と女性陣が多く、身近にある花を使って生けることが日常だった。花は畑で作るもの。花を買ってくるという概念がない。そんな環境で育ったさゆりさんが中学3年生から池坊を習い始めるのは自然な成り行きだった。花に触れたくて、子育て中も子どもを預けて内緒で習いに行った。それは心を整えるためだった。花について語ったり、愛でたり、触れたりすることは生活の中でなくてもいいものだけれど、あると心が豊かになるもの。花を生けている時のさゆりさんは本当に心穏やかな表情をしている。しかし、よく見ると花を見つめる眼差しは真剣そのもの。
「花を生ける行為は小さな選択の繰り返し。迷うことを楽しんでもいい。何本もある花の中で、その選択に自信を持つ。その時の美しいと思う自分の感覚を信じる。だから間違いはありません。自分の選択に納得できた時は一番気持ちがいい」
この日、ピッチャーに生けられた花は私のためだけに生けられた花だ。私が依頼したのだから当然といえば当然なのだが、とても嬉しかった。池坊で生ける花はもてなしの花。お客さまが来る時だけ咲いているように準備する。その池坊の精神を、さゆりさんは花屋として活動する上で大切にしている。さゆりさんが「letter from the field」として活動を始めたのは2023年7月。その前は「sulley bouquet」という名前で活動をしていた。「letter from the field」は直訳すると「畑からの手紙」。よく目にする光景、景色の中から花を連れてくるという意味が込められている。花は市場や花を売っている農園ではなく、野菜や果物を売っている農園から仕入れている。仕入れ先の農園では、畑で咲いて朽ちていく花が多い。さゆりさんの畑にも花はあるけれど、装花でたくさん花を使うこともあり、畑の花を無駄にせず活かすために色々な農園から仕入れ始めたという。さゆりさんは仕事で花を生ける度に花の種類や育った場所、香りの特徴を紙に書いて添えている。さゆりさんが生ける花やブーケはいつもいい香りがする。その理由はハーブ。花を生ける時にいつもハーブを加えているのだそう。以前、イベントでさゆりさんにお会いした時、
「ハーブは家に帰ったらコップや水差しに入れてキッチンに飾っておくといいですよ。見た目は可愛いし、料理の時にすぐ使えます」
と教えてくれた。さゆりさんがハーブを入れるのは飾ることが目的ではなく、変化を楽しむことが目的。
「毎日花に触れることが生活の一部であって欲しい。花でなくても茄子など野菜でもいいんですよ」
考えてみると野菜も花と同じ土で育つ植物。発想を豊かにすると身の回りにあるものが暮らしに彩りを添えてくれることに気づく。人にとって植物なしの生活は考えられない。植物とともに生きる喜びを私はさゆりさんから教えてもらった。
letter from the field レター フロム ザ フィールド
2025年はお花の教室を開講予定。
Instagram:@letter_fromthefield
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