ニイガタのパリ案内。
古いものと新しいものが同居する街、パリ。
いつの時代もパリは人びとの憧れ。
パリジェンヌもパリジャンも自分の好きなものを知っていて、好きなものは手入れをしながら長く大切に使用している。
馴染みのパン屋さんがあったり、カフェやビストロがある。
魅力的な街ってなんだろうと考えた時、パリのエスプリを感じる街ではないかと思ったのです。
今回は新潟の、そんなパリのエスプリを感じるお店を紹介いたします。
01 store room ストアルーム
02 Crêperie Le Pont Marie クレープリー・ル・ポンマリ
03 フランス食堂 清水
04 Pâtisserie Solange パティスリー ソランジュ
and more
- J&Y CHEESE SHOP ジェイ アンド ワイ チーズショップ
- Sugar COAT シュガー コート
- 花屋 里乃彩 SATO NO IRO
01 store room
ストアルーム
日々の暮らし、
好きなものを見つけて
楽しみませんか。
新潟市中央区の青々とした街路樹が立ち並ぶ上大川前通に、アンティークの黄色い自転車が目印のセレクトショップがある。その名は「store room」。優れた品質やデザイン、機能美を備えた国内外のすぐれものや、アンティークの家具や雑貨などが揃う。
私が新潟で見かけたことのなかったシェイカーボックスに出会ったのもstore roomだった。見た瞬間に心ときめいた。温かみがあり、美しい佇まいをしている。何を入れようか。考えるだけでワクワクした。
新潟の冬空はほぼ灰色で、気分が上がらない時がある。そんな時にstore roomで、持ち手が栗の木のピンクの傘を見つけた。風が強い日でもビクともしない丈夫な作り。雨の日に傘を持つのが楽しみになった。
ある時、store roomを訪ねたら、レース使いが素敵なスカートを見つけた。普遍的な美しいデザイン、着ていくうちに身体に馴染んでくるような生地や縫製、こだわりを感じるディテール。タグには「a piece of Library」と書いてある。「a piece of Library」はstore roomのオリジナル商品だと教えてもらった。新潟でこんなにクォリティーの高い服を作っている会社があったことに驚いた。
会社の設立は2006年9月。社名のLifewares &Co.のLifewaresはLifeとWaresの造語だという。ベーシックであるが故の優れた日常使いのものたち、心を豊かにするものたちを扱っている。それらの商品を集めたのがstore roomだ。
代表の小林さんは「お客さまには普段の生活を豊かに楽しんでもらいたいと思っています」と語る。
会社の設立前、小林さまと奥様は東京でアパレルの仕事に携わっていた。当時から古着やアンティークなど、ベーシックで年月が経っても色褪せないものが好きだった。次第に売れるものに囚われたもの作りに違和感を感じるようになり、心に響いたものを扱いたい、自分のペースでやっていければ良いなと思い、独立する。奥様は退社後、ウェディングのパターンの仕事に5年間携わる。お店のオープン前には、アンティークの家具などが好きだったこともあり、二人で北欧の国々を見てまわった。そしてお店のオープン。お店は奥様の実家がある新潟に出すことに決めた。
store roomに来れば、小林さんと奥様の好きがいっぱい詰まったお店だということが良くわかる。アンティークの家具や雑貨、国内外からセレクトした服たちだけでなく、文房具や食器、ハンドメイドの革製品やアクセサリー、見ているだけで和む置きもの、アロマやスキンケア用品、靴の隣にはちゃんとシューケア用品まで置いてある。決して高いものだけを扱っているのではない。お手頃価格のものもある。商品を選ぶ基準は常に、ベーシックな優れもの、心に響くものであるか否かであって、値段や商品名で選んではいない。
「a piece of Library 」は、決して着飾るものでなく、馴染んでいく心地良さを体感できるラフなスタンダード、外見だけよく見せようと着飾るのではなく、内面にも目を向けたもの作りをしている。
「a piece of Library」の服は仕立てが良い。ボタン、刺繍のあしらいなど、どれも美しい。小林さんや奥様が自ら着た古着やワークウエアを元に、着ていくうちに身体に馴染んでいくような生地選び、生地を活かすデザイン、着た時に心地よく、すっきりと美しく見えるパターン起こし、丁寧な縫製によってできあがっている。
「縫製は新潟の五泉や新発田の会社の他、日本各地の信頼できる会社にお願いしています。求めた商品に仕上がっていない場合は何度でもやり直しをしてもらいます。相手も同じ気持ちでないと良いものはできませんから。コストがかかったとしてもお願いしています」。
デザインの源は何だろう。私は60年代のフランス映画かと思った。
「映画だとブリジット・バルドーですね。フィッティングルームにバルドーのポスターが飾ってあるんですが、この映画で元々美しいバルドーがヘルメットを被ったり、トレーナーや軍モノのパンツを着ているんです。男前の洋服をまとっているのに素敵なところ。そんなところからインスピレーションが湧きますね。ただ映画より古着からデザインが浮かぶことが多いです。ワークウエアとか。生地を見ると、あの古着の感じにしようとデザインが浮かんできす。生地選びもデザインも、妻とはいつも意見が一致するんですよ。僕たちの服は、皆さんにこう着て欲しいというのがないんです。皆さんのお好きなように、自由に着て楽しんでください」と小林さん。
「a piece of Library」の服を見ると、このワンピースはアーミッシュのように着てみたいな、あのリネンのパンツはアニー・ホールのダイアン・キートンのように着てみようかしらなどと想像を掻き立てられる。一方で、リネンのブラウスにスカートやパンツをさっと合わせただけでも様になる。
ベーシックな服ほど着こなしの選択肢は多く、”どう着るか”の楽しみが沢山潜んでいるのではないだろうか。
写真右下
店内にはアンティークのビンから作家の一輪挿しまで様々なガラスが飾られてある。
「夏のガラスは良いですね。ガラスは花を生けるだけでなく色々な楽しみ方ができます。夏の光に当たったガラスの輝きだったり。夏はガラスを楽しんでみてはいかがでしょうか」。
小林さんのお話を聞いて、今すぐ実践してみたくなってしまった。
写真左下
アンティークと現代のものが自然に溶け合う空間。お客さまから「こんな家に住みたい」と言われることもあるそうだ。
入り口近くに飾られてあるのは鎌倉にある小道具屋「artique kamakura(アーティーク 鎌倉)」のオーナーが描くブリキの絵。
フィリップ・ワイズベッカーさんのイラストのような温かみのあるタッチでビンや時計、メトロノームなどが描かれている。
store room ストアルーム
新潟市中央区上大川前通7-1237-1 1F ☎︎025-378-8377 (営)11時〜19時 (休)月曜日
02 Crêperie Le Pont Marie
クレープリー・ル・ポンマリ
幸せを呼ぶ本場の
ガレットとクレープ。
新潟市中央区の古町に「ここはパリ?」と思ってしまうような一際目を引く一角がある。ピンク色の外観が目印のお店『クレープリー・ル・ポンマリ』。愛称はポンマリだ。フランスのブルターニュ地方の郷土料理でもあるガレットとクレープ専門のカフェである。
週末になると店先で、若い女の子達や家族連れがテイクアウト用のクレープが焼き上がるのを待っている姿をよく見かける。店内に入ると更にパリにいるかのような気分になる。様々な雑貨とともにアーティストの絵があちらこちらに飾られてあり、モンパルナスにいるかのよう。いつだったかフランスのラジオ番組が流れていたこともあった。
ポンマリではいつも定番のコンプリートかチーズたっぷりのフロマージュのガレットを頼むのだけれど、ある時、隣の席の若い女の子たちが「パリジェンヌだって、可愛い。パリジェンヌにしてみようかな」と話しているのを聞いて、私もパリジェンヌを頼んでみることにした。パリッと焼き上げられた生地に、とろ〜り卵とチーズのコク、フレッシュトマトとバジル、バジルソースが爽やかさをプラス。少しピリッとするチリパウダーやレッドペッパーが味を締める。うわぁ、フォークとナイフが止まらない。
クレープの場合は寒い時期だとキャラメルやバターを頼むことが多いのだけれど、ポカポカ暖かくなってくると、さっぱりした果物のクレープが食べたくなってしまう。この前食べたミエルシトロングラスも美味しかったけれど、今回は隣の席に運ばれて来たイチゴとフランボワーズソースのクレープが美味しそうだったので、同じものを頼むことにした。イチゴがハート型にカットされていて可愛い。薄く薄く焼かれたクレープの生地に、生クリームとイチゴ、フランボワーズソースを絡めて口に入れる。甘酸っぱいイチゴとフランボワーズソースを生クリームの優しい甘さが包みこむ。あぁ、なんて幸せなのだろう。
ポンマリがオープンしたのは2014年4月。今年の4月で5周年を迎えた。オーナーのポンジさん(愛称)は「最初は5年続けられれば良いなと思っていたので、続けてこられて嬉しいですね」と語る。
ポンマリができるまで、新潟にはクレープ屋さんはあったけれど、ガレット&クレープの専門店は見かけたことがなかった。
「パリを訪れた際に食べたガレットの可愛らしさと美味しさに感動して、新潟にはまだないガレットとクレープのお店を出そうと決めたんです」とポンジさん。
ポンマリのガレットやクレープは、ポンジさんがパリで出会って感動した味を再現して作っている。
「ブルターニュ、モンパルナス、その他パリ市内の様々なガレット店を食べ歩きました。その中でも、ホストファミリーのマダムのお友達がやっているお店のガレットが美味しくて、最初は3ヶ月、その後1ヶ月と通っては食べて、焼き方を教えてもらいました。そのパリでお世話になったクマダムの名前がマリと言うんですが、自分のお店を出す時はマリの名前を入れたくて、あとパリにマリ橋というところががあって、ポンジとかけてポンマリにしたんです。粉の配合はオリジナルです。好きなパリのお店の味に近いものになるように独自に配合しています。ガレットは国産の蕎麦粉を使用しています。日本は蕎麦が美味しいですからね。クレープはフランス産の小麦粉を使用しています」。
蕎麦粉のガレットは塩味の食事系、小麦粉のクレープは甘いデザートというイメージだったが、ポンマリでは甘いデザートも小麦粉のクレープだけでなく、蕎麦粉のガレットも提供している。
「フランスでは蕎麦粉のガレットはしょっぱい系も甘い系も両方あって、みなさん、どちらも食べていますよ。フランスでは屋台やマルシェにクレープ屋さんが出ていて、お店のおじさんがサッと焼いて、熱々を提供してくれるんです。だからかチョコレートやキャラメルソースなどシンプルな具が多いんです。日本のようなクリームたっぷりのクレープもフランス人は好きだと思いますが。ノエルの時期にマシーンの上で焼いた熱々クレープを食べるのがたまりませんね」。
他所のお店に比べ、ポンマリのガレットの生地はパリッとしている。その秘訣は蕎麦粉や水などの配合の他、焼き上げる温度も関係しているそうだ。
「フランス製のクレープマシーンを使っているので、高温で焼き上げることができます。家庭用の鉄板のように温度が低いと、ここまでパリッと焼き上がらないんです」。
ある日、隣に座った高校卒業したばかりと思われる女の子たちが「ポンマリってエシレバターって言う美味しいバターを使っているんだって。楽しみだね」と話しているのが聞こえてきた。ポンマリのクレープは他所のお店に比べ、決して安くはない。安さではなく味でお店を選んでいる若い子もいるんだとわかって嬉しかった。
「ポンマリは割と年齢層高めなんですが、最近は高校生とか若い子も増えてきましたね。中学生が一人で買いに来てくれることもあるんですよ。嬉しいです。大体皆さん、お店が可愛いと言って入ってくるんですけど、食べた後に美味しかったですと言ってくれたり、幸せ〜という声が聞こえてくると嬉しいですね。あと写真を撮っている子も多いのですが、写真をバシバシ撮って美味しいのを食べて楽しんでもらえて、本当に嬉しいです。忙しくても頑張れます」。
お店の隅々までポンジさんの”好き”が溢れているポンマリ。私たちは美味しいガレットやクレープとともに、ポンジさんの”好き”も味わいに来ているのかもしれない。
写真右下
イチゴとフランボワーズソースのクレープ
夏場、美味しい国産イチゴが出回らなくなった場合は、他の夏のくだものに変更予定。
※ イベント情報
毎年夏に信濃川のやすらぎ堤で開催されているミズベリングに6月末頃からクレープテイクアウトのみで出店予定。イベント開催期間の9月末までは古町店は営業していないそうだ。
「是非、お散歩やお買い物のついでにやすらぎ堤のお店までお立ち寄りください。お待ちしております」。
Crêperie Le Pont Marie クレープリー・ル・ポンマリ
新潟市中央区古町通4番町632−1 ☎︎025−201−6014 (営)11時〜17時 不定休
03 フランス食堂 清水
ボンジュール!
ここはニイガタのパリ。
ワインを飲みに来ませんか?
新潟市北区の安藤忠雄が設計した豊栄図書館の近くに古民家を改装したビストロがある。2017年12月、店主の清水さんが地元豊栄でフランス料理店『フランス食堂 清水』をオープンさせた。ビストロは食堂、居酒屋という意味のフランス語。敷居が高いイメージのフレンチをもっと身近に感じて欲しいという想いが込められている。
ところで皆さんはナチュラルワインをご存知だろうか。ナチュラルワインを簡単に説明すると、有機農法で栽培されたブドウを使い、できる限り自然のままの製法で造られたワインのことをいう。名前は聞いたことがあるけれど飲んだことはない、そんな方が多いのではないだろうか。実は私もそのひとり。ナチュラルワインを知ったのは最近だ。ワインに興味があるけれど詳しくない。ワインは濃くて渋いというイメージを持っていた。そんな私が初めてナチュラルワインを飲んだ時の衝撃といったらない。ブドウを丸ごと食べているような味わい、フレッシュな果実のフレーバー、サラサラとした喉越し。今まで飲んだことのない美味しさに驚いた。しかも別のワインを飲んでも、はっきりと味の違いがわかる。各生産者の個性が感じられるのだ。ナチュラルワインをきっかけに、普通のワインにも興味をもち、ワイン自体が好きなる。『フランス食堂 清水』では、そんな大地の恵みを受けたブドウで造られたワインが沢山揃っている。たまには日本酒ではなくて、ワインで晩酌も良いものだ。
フランス食堂 清水のメニューは家庭的なフランス定番メニューが中心だ。お客さまにハード系のパンと食事を楽しんでもらいたい、そんな想いから料理やデザートだけでなくパンも自ら手作り。野菜や肉、魚は極力県産を使用。時期や鮮度の良い野菜を仕入れるにあたり、豊栄の直売所や聖籠、阿賀野市の生産者を訪ね直接取引もしている。時には清水さん自ら食材を調達してくることも。ホタルイカと苺のサラダには、清水さんが笹神の山の麓まで行って採取してきたばかりの香り豊かな芹が入っていた。
「実家が田んぼの真ん中にあり、自然がいつも身近にありました。そのため、色んな食材を料理に変えられるお店をやりたいと思っていました」。
清水さんの料理は素材の旨味や香り、食感をうまく引き出すようにスパイスなどの調味料の組み合わせを工夫している。パテを口に入れた瞬間、肉の甘みとほんのり香るスパイス、時々現れる肉の食感に思わず微笑んでしまう。付け合わせのじゃがいも一つにしても、ホクホクしたじゃがいもの甘みが感じられて嬉しくなる。意外に少ないのだ、このホクホクした甘みが感じられるじゃがいもを出すお店というのが。
「下積み時代は多数のお店を経験し、沢山の人から影響を受けて来ました。19歳の時に1ヶ月間研修で入った青山の老舗ラ・ブランシュの3番手の方にはよくして頂き、影響も受けました。研修が終わった後も2年間ほど毎月1回勉強の為に通わせて頂き、色々な料理を食べました。ずっと通っていると気づくことが沢山あります。同じ味は再現できませんが、必ず味見をして、どう思うか考えてから味付けを決めるという部分は今でも参考にさせて頂いています」。
ワインは専門学校の頃、ソムリエ講座で飲んだ赤ワインに感動し、仕事終わりに毎晩試飲させてもらっているうちに好きになる。ナチュラルワインを好きになったのは、好きになったワインの生産者がナチュラルワインの生産者だったという自然の流れだった。
「最も衝撃だったワインはジュラール・シュレールの99年ピノグリです。ただ同じ銘柄の年違いを飲んでも全然味が違います。ナチュラルワインは酵母がビン単位で違うので、同じ年でもビン差があると言われるような、一期一会の要素も惹かれる現認でしょうか」。
地元での独立は上京する18歳の頃から考えていたが、具体的に考えたのは20歳の頃。
「25歳でフランス、30歳で結婚、35歳で独立と考えていました。実際に30歳になって今後を考えた時に想いが変わらなかったことと、閑散とした田舎を見ていて自分が開業して人を集めることができるだろうかと考えていました」。
清水さんがフランスへ行ったのは2011年9月。ブルターニュに2ヶ月、その後は友人と二人、車で3週間ほどかけフランスを一周し、パリへ入る。
「妻とはパリで知り合いました。彼女の影響で休みの日は蚤の市に繰り出していました。その時に集めたアンティークを今、お店で使用しています。週3回、家の前で開かれるマルシェではお薦めを尋ねながらチーズを買い、酒屋でもお薦めを尋ねながらワインを買う。自転車で色々なパン屋を周り、バケットを買って食べ比べをしました。買ってきたものを家で食べるのがすごく楽しくて楽しくて。美味しいワインに合わせてチーズ、パン、惣菜などを気軽に楽しめるお店を作ろうと決めました」。
そして独立し、開業。フランス食堂 清水の店内はノスタルジックな落ち着きのある空間になっている。窓からは柔らかな優しい光が差し込む。ランチ時になると店内はお客でいっぱいだ。あちらこちらから聞こえてくる笑い声。皆、笑顔で料理を食べ、会話を楽しんでいる。気軽にフランス料理を楽しんで欲しいという清水さんの想いが伝わっているからだろう。
お客さまにワインを身近に感じてもらい、気軽に楽しんでもらおうと定期的にワイン会も開催している。清水さんはソムリエでもあるので、ワインについて気軽に相談や質問ができるのも嬉しい。
豊栄に人を呼んで元気にしたいという想いも忘れていない。
「今後は異業種の人も交えてイベントを開催できたら良いなと考えています」。
きっと楽しみながら実践してくれるに違いない。
フランス食堂 清水
新潟市北区嘉山1丁目1−39 ☎︎025−369−4885 (営)11時半〜15時(14時L.O.)、18時〜22時(20時L.O. ドリンク21時半L.O.) (休)月・第2日曜日
04 Pâtisserie Solange
パティスリー ソランジュ
何でもない日にも、
口福のフランス菓子を。
新潟市中央区の学校町通に「パティスリー ソランジュ」という水色の看板が目印の可愛らしいお菓子屋さんがある。フランスの伝統菓子を扱っているお店だ。西大通りから一本奥に入った通りにあり、まるでパリの路地裏にありそうな佇まいをしている。
お店に入ると直ぐ、右手に陳列台に並ぶガトーバスクが目に入った。バスク…。バスクリネンやバスク料理を求めてバスクを旅してみたいと思っていた私は思わず、ガトーバスクに反応してしまった。新潟では見かけたことのなかったガトーバスク。隣にはカヌレやキッシュまである。ショーケースには華美とは違う、佇まいが美しくて可愛らしいケーキが並んでいる。陳列棚とショーケースを行ったり来たり。どれにしようか目移りしてしまう。迷った末、つやつやとルビー色に輝く「赤ワインとりんごのパイ」を買って帰ることにした。
赤ワインとりんごのパイを初めて食べた時のことは忘れられない。一口かじると、バター香るサクサクのパイ生地に甘酸っぱくてジューシーなコンフィチュールが口に広がって、時どき現れる飴状になったカラメルがパリッと口の中で砕ける。五感を刺激する美味しさに笑みが止まらなかった。この日はいつもの何でもない日だったけれど、幸せを感じ、心が満たされた。
オーナーパティシエールの三善さんが学校町にお店を開いたのは2017年2月。大きなガラス戸を引いて店内に入ると、いつも三善さんが厨房から笑顔で迎えてくれる。店内は厨房が見えるようにオープンになっているのだ。
「一人でお店を切り盛りするため、敢えて大通りに面していない場所を選んだんです。作るだけでなく、お客様と会話がしたくて。お店を作る時に店内から厨房が見えるような設計をお願いしました。お客様とお話ししたり、笑顔で喜んでくださるお客様を見ていると、私も仕事のモチベーションが上がり、大変でも頑張れます」
三善さんが作るお菓子はどれもシンプルだ。シンプルが故に素材にこだわり、一つ一つ丁寧に作られている。新鮮で上質な素材を使って丁寧に作られていることが、お菓子を一口、口に入れただけでわかる。口に入れた瞬間に「口福」と思わず笑みが浮かんでしまうから。
パティスリー ソランジュのスペシャリテの一つ「赤ワインとりんごのパイ」は、フランスでの修業時代に出会ったお菓子だという。
「小さい頃からお菓子作りが大好きで、お菓子屋さんになりたいという夢がありました。京都にいた時に働いていたお店にカヌレなどのフランスの伝統菓子があったんです。もともと焼き菓子が好きだったこともあり、フランスの伝統菓子に惹かれていきました。その後、様々なフランスの伝統菓子や地方菓子を学びたくて、フランスのトゥールにある職業訓練校に入り、製菓製造について学んだり、現地の製菓店で研修したりしていました。トゥールから南西のところにワインで有名なシノンという街があるのですが、赤ワインとりんごのパイは、そのシノンの郷土菓子なんです。色々な食べ物が集まるパリでも見かけない、シノンでしか食べられないお菓子です。パティスリー ソランジュではシノンのワインで作ったコンフィチュールを使用しているんですよ」。
パティスリー ソランジュのもう一つのスペシャリテ「ガトーバスク」。アーモンド香るサクッとした生地に、なめらかで濃厚、優しい甘さのカスタードクリームがサンドされている。シンプルなのにリッチな味わい。ガトーバスクは、フランスのバスク地方にある1872年創業の老舗菓子店「Miremont(ミルモン)」に勤務していた時に知識や技術を深めていったという。
「ミルモンへは自分で履歴書を書いて持っていき、雇ってもらいました。ガトーバスクは、中がカスタードのタイプとチェリーが入ったタイプがありますが、パティスリー ソランジュでは寒い冬や春はカスタード、暑くなってきたらチェリー入りにしています」。夏はもうすぐ。チェリー入りのガトーバスクが待ち遠しい。
フランスでの修行時代、三善さんはお店のコンセプト『アトリエから、”日常(いつも)”に贈るフランス菓子。』に繋がる体験をする。
「フランスではお菓子は宗教行事やイベントなどの特別な日のものだけでなく、日常的にお菓子を食べる習慣がありました。家族や友人などとお菓子を囲んだり、自分のおやつとして一つだけ、はだかのままの焼き菓子をつまむ人たちをよく見かけたものでした。そんなフランスのような、人びとの生活に根ざしたお菓子を作りたい、お客様には一つからでも気軽に食べていただきたいと思っています」。
そう言えば、パティスリー ソランジュではシュークリームの学生割引がある。
「学校町という名の通り、近くには沢山の学校がありますから、気軽に一つだけでも買いに来てくれたら嬉しいなと思って始めました」。
お店を訪れると三善さんはいつも、美味しい状態にお菓子を保つ為、お客様の様子を伺いながらこまめにケーキを補充したり、追加でお菓子を焼き上げたりと、店内と厨房を行ったり来たりしている。しかし、三善さんは忙しそうな様子を見せず、至って穏やかなのだ。翌日の仕込みはその日のうちに終わるのだろうか、ふと気になって尋ねてみた。
「月曜日から水曜日まで、お店は休みなんですが、定休日に営業日に使う分の仕込みをしています。もう少し時間に余裕があれば、他のお店も食べ歩きできるんですけどね」と三善さんは笑いながら語ってくれた。
パティスリー ソランジュのお菓子は、三善さんの優しさも詰まっているから、食べると思わず笑顔になってしまうのかもしれない。
写真左上 ガトーバスク:現在、チェリー入りのガトーバスク発売中。
写真左下 赤ワインとりんごのパイ。
写真右上 エクレア キャラメル:シンプルで可愛らしい佇まいのエクレア。エクレア目当ての常連さんもいらっしゃるのだとか。
Pâtisserie Solange パティスリー ソランジュ
新潟市中央区学校町通三番地523 (営)10時半〜18時(売り切れ次第終了)(休)月〜水曜日
and more
J&Y CHEESE SHOP
ジェイ アンド ワイ チーズショップ
フランスなど、ヨーロッパを中心とした世界のチーズを扱うお店。店内にてワインなど、お酒も一緒に楽しめる。チーズと一緒に楽しみたい生ハムやオリーブ、ドライフルーツ、コルニッションなども販売。
J&Y CHEESE SHOP ジェイ アンド ワイ チーズショップ
新潟市中央区本町通5番町235 ☎︎025−378−0058 (営)11時〜21時 不定休
Sugar COAT
シュガー コート
フランスやイギリスを中心に仕入れをした美味しい紅茶と手作りお菓子が楽しめるお店。喧騒を忘れてゆっくりとした時間を過ごせる。お菓子の他、茶葉も50gから販売。
Sugar COAT シュガー コート
新潟市中央区西堀通3−802−3 ☎︎025−223−9239 (営)11時〜18時 不定休
花屋 里乃彩
SATO NO IRO
「フランス食堂 清水」の店内をワイルドフラワーでノスタルジックに演出していたのは「花屋 里乃彩」の栗山さん。生花の他、多肉植物や観葉植物なども扱っている。
花屋 里乃彩 SATO NO IRO
新潟市北区葛塚3270−2 ☎︎025−311−5521 (営)9時〜19時(日・祝日〜18時) (休)火曜日
text ・photo:Miyako Shimizu
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