02. BOOK DAYS

長くつ下のピッピ

アストリッド・リンドグレーン著

岩波少年文庫


 ある日、Sugar COATの2階のいつもの席でお茶をしていた私は、いつものようにお菓子の盛り合わせを頼んだ。その日は珍しく、いつもの焼き菓子たちの中に紛れて可愛らしいうさぎの形をしたクッキーが入っていた。そのクッキーとは生姜の風味とパリパリした食感がクセになるジンジャークッキー。ジンジャークッキーと言えば、私は『長くつ下のピッピ』を思い出す。大量のジンジャークッキーを焼こうと、山盛りの生地を台所の床に敷きのばしているピッピ。なぜだかピッピが作ると、豪快だけれども、それはそれはすてきに美味しいクッキーが焼き上がるような気がする。

 『長くつ下のピッピ』の著者であるアストリッド・リンドグレーンは本書の他、映画にもなった「ちいさいロッタちゃん」も手がけたスウェーデンを代表する児童文学作家。皆さん、ご存知の方も多いのではないだろうか。本書が刊行されたのは1945年。長く愛されているものには、いつの時代も変わらずに愛され続けるだけの理由がある。

 この物語はリンドグレーンが娘が小さかった頃に語り聞かせてやった話がもとになっている。ピッピはスウェーデンの小さい、小さい町の町はずれにある古い家「ごたごた荘」で一人で暮らす女の子。お母さんはピッピがまだ赤ちゃんの頃に亡くなり、お父さんは航海中に船が難破し行方不明。それでもピッピはお母さんは天からいつも見守ってくれている天使で、お父さんは流された島で黒人の王様になり、あとで迎えに来てくれると信じている。一緒に暮らしているのは猿のニルソン氏と馬(馬には名前がないみたい)。隣の家にはトミーとアンニカという兄妹が住んでいて、ピッピは自由気ままに楽しく暮らしている。

 私が子どもの頃はピッピの活躍ぶりに憧れを抱いていた。子どもがやりたかったことや願いをいとも簡単に叶えてしまうスーパーヒーローだった。大人になり再びこの本を読み返してみると、ピッピの明るくて好奇心旺盛、正直で親切、そして誰にでも平等なところ等、人間性に目がいってしまう。ピッピには親がいない。それなのに、明るく前を向いて生きている。常に自分の目線で物事の良いところを見つけ出す。自分のことをもの発見家だという。

「この世界には、いたるところ、ものがいっぱいあるわ。だから、誰かがそういうものを発見してやるのが、ぜったいに必要なのよ。そこで、それをするのが、もの発見家なんだわ」。

ピッピのいう“もの”とは、ありとあらゆるものを指す。世間一般に価値がないとされているものでも、ピッピにとっては宝物になってしまう。また、失敗ばかりして、できが悪いと思われている人の中にも良いところを見つけだし、ピッピにとってはかけがえのない大切な人になってしまう。有名人であろうがなかろうが、権力のある人であろうがなかろうが、お金持ちであろうがなかろうが誰に対しても平等なのだ。

 いつの時代も何かしらの生きづらさがある。しかし、人として大切なことはいつの時代も変わらないと思う。だから『長くつ下のピッピ』は世界中の多くの人たちに長く読み継がれているのだろう。子どもにも大人にも、ピッピを友だちだと思って読んでもらいたい一冊である。


★ジンジャークッキー:Sugar COAT

★カッティングボード:ISANA

text・photo:Miyako Shimizu

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