03.COFFEE AND MUSIC

LUXUOSO 

ルシュオーゾ


だれもが美味しいコーヒーを淹れられる、そんな豆ってあるんです。


 古町の柾谷小路から東堀通を下の方に向かって歩いて行くと、11番町にあるマンションの1階にロースタリー「LUXUOSO」がある。通い慣れるまでは、9番町から郷土資料館線を越えて10番町に入って行く辺りで、本当にこの辺に店があるのかなと不安にさせられる。LUXUOSOが東堀通に店を構える前は美咲町に店があった。美咲町の店も、ナビ機能のない車や携帯電話を利用していたアナログの私にはわかりづらい場所にあり、残念ながら一度も店に辿り着くことはできなかった。LUXUOSOは移転前も移転後もコーヒー豆を買いに行くには少々面倒くさい場所にある。だけれども繰り返し訪れてしまう。それはやはりLUXUOSOのコーヒー豆で淹れると美味しいコーヒーが飲めるからだ。

 正直にいうと今まで私は自分で淹れたコーヒーを美味しいと思ったことがほとんどなかった。店で飲むと美味しいと感じるのに、自分で淹れたコーヒーは豆の美味しさを感じない。ずっと自分の淹れ方がヘタなのだと思っていた。だから美味しいコーヒーは店で飲めばいい、家ではインスタントコーヒーでいいと思っていた。ところがLUXUOSOのコーヒー豆は違った。挽いた豆にお湯をそろりと注ぐとプクーっと豆が膨らみ、コーヒーのアロマが立ち上る。表面は弾けるようなハリがあり、淹れたてのコーヒーを口に含むと美味しい酸味にローストした豆の香ばしさ、ほんのり甘みが感じられる。

 LUXUOSOが他所とは違うのは、誰もが美味しいコーヒーを淹れられる豆を販売していること。

「コーヒーの淹れ方は関係ないんです。豆が重要なんです。良い豆であれば誰でも美味しく淹れられますよ」

これは店を訪れると店主の稲月洋介さんがよくいう言葉だ。

「修行していた当時、日本のコーヒー文化は、コーヒーの淹れ方だとか豆の挽き方、焙煎の仕方にこだわっていて、本来一番重要である豆が、どこで誰がつくったものなのか追求していませんでした。しかし、コーヒーの美味しさは6、7割が豆の仕入れで決まるんです」

 稲月さんは豆の管理を徹底している。豆は鮮度が一番。どんなに良い豆を仕入れても鮮度や保存方法を怠るとすぐに劣化してしまう。ニュークロップ(収穫したばかりの新しい生豆のこと)はそのままであれば1年くらい保つが、火を入れてしまうと豆の状態でも2週間くらいで駄目になる。火を入れてできあがった豆は急冷し、冷凍で2週間が保存目安。ショーケース内の温度は5℃に冷して管理。お客に豆を渡す際に入れる袋は空気に触れないようにバルブ付きの袋を使用という徹底ぶりだ。

「焙煎したての鮮度の良い豆は炭酸ガスが出ている為、バルブのない袋に入れると袋が膨らんで爆発してしまいます。バルブのない袋に入れて膨らまないのは焙煎してから何日か経っている証しなんです」

 私はロースターというのは自分の美味しいと感じる理想の味を目指して豆を焙煎していると思っていた。しかし稲月さんは違った。そんなに理想の味にこだわりはないという。

「焙煎はそんなに難しくありません。コーヒーの美味しさは、大半が生豆の入荷時点で決まる為、美味しい豆の特徴を見極めて焙煎するだけなんです」

 コーヒー豆にはコーヒーチェリーという果物の種、果物の果汁、酸がたくさん詰まっている。その為、フルーツのようなフレーバーなど酸に特徴がある豆は浅煎りにし、チョコレートのような甘さやカカオっぽさがある豆は深煎りにするなど、生産地から届けられた良質な素材を生かすために豆の特徴を引き出すようにして焙煎しているそうだ。

 焙煎した豆が並ぶショーケースを見ていると、11だとか86だとか、豆ごとに番号が割り振られていることに気づく。同じ地域の豆でも農園毎に品質が異なる為、プレートには農園名を記載し、農園毎に番号を割り振っているという。現在、スペシャルティコーヒーの普及で良質のコーヒー豆の多くがオークションにかけられてしまう為、豆が値上がりし、経済力の弱い日本は良質の豆の仕入れに苦戦しているそうだ。そんな中で仕入先が独自のルートで仕入れてきた良質な豆を無駄にすることはできない。

 豆は植物性油が含まれている為、圧倒的に温度に弱い。また空気に触れることによる酸化や湿度にも弱いので注意を怠れない。焙煎した豆は、いったん火で生豆の水分を飛ばしている為、空気中の酸素と水分を取り込もうとする。その為、特に湿度の高い夏場は外に豆を置いておくとすぐに腐ってしまうのだそう。だからこそ、稲月さんはお客の元に渡るまでは豆の管理を怠らない。

 稲月さんに焙煎している時の楽しさを尋ねてみたところ、焙煎している時に楽しいと感じたことはないという。そのかわり、焙煎したてを淹れて飲むと「やっぱり美味いな」と何回も言ってしまうそうだ。たしかに、真剣に何かに夢中になっている時は全神経を対象に向けている為、楽しさを感じる余裕はないが、目標に到達できた時の喜びは計り知れない。それだけ稲月さんが真摯に豆と向き合っているということだ。

 店を始める際、一番初めは新潟の人たちにこんなに美味しいものがあるんだと知って欲しくて豆の販売を始めたという稲月さん。しかし、いつしかこの仕事は新潟の人たちだけではなく、日本の人たちに向けてやらなければならないと思うようになったという。

「日本各地からネットで注文を受けます。ネットの場合は注文を受けてからその都度焙煎し、早い場合は焙煎してから6、7時間後にはお客様の元に届きます。ネット販売の方が店舗販売よりも新鮮な豆を提供できるんです。現在は店舗販売とネット販売の割合が半々ですが、10年後にはネット販売の方が増えていると思っています」

 2007年の開店時から一貫して豆の重要度を伝え続けてきた稲月さん。コーヒー豆を通して日本各地へ稲月さんの思いは伝わっていくだろう。

COFFEE AND MUSIC 

Selected by 稲月洋介 

「→Pia-no-jaC←」 Typhoon

「美咲町の店舗の時によく聴いていました。ピアノといえばクラシックな曲を想像してしまいますが、ピアノをパーカッションのように弾いていて、めちゃくちゃロックなんです。美咲町の店舗のような無機質な空間でコーヒーを飲みながら聴きたくなる曲です」


LUXUOSO

ルシュオーゾ

新潟市中央区東堀通11番町1754 リバティープラザ東堀Ⅱ 1F ☎︎ 050-5217-1539

営業時間:10時-19時 定休日:水曜日

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