02.つながる、つづく。

旬果甘味店ルコト 

シュンカカンミテンルコト


おいしいものでつながっている、農と福祉と食、それに私たち。


 イベント会場などにキッチンカーで出向き、旬のおいしい果物や野菜を使用したおやつにフードを販売している「DAIDOCO青果氷店」が、2月23日に「旬果甘味店ルコト」(以下、ルコト)としてリニューアルオープンした。

「青果氷店だとどうしても夏場のかき氷のイメージが強いので、年間通して旬の味覚を味わっていただくために店名を新たにしました」と語るのは、ルコトを運営するC’s kitchen代表の佐藤千裕さん。

 ルコトは東区松島に週末オープンの店舗があるが、私がよく利用するのはキッチンカーや新潟駅にある「Hacco to go!」。ルコトの焼き菓子やジャムはナチュラルなやさしい味わいで心から美味しいと感じる。食事中も食後も口福感で満たされ、穏やかな気持ちになる。きっとおいしい食材のつくり手と、おいしく調理するつくり手の皆さんのやさしさが味に出ているからだろう。

 店名のルコトは“つくルコト、たべルコト、つながルコト、いきルコト”のルコトからきている。地元新潟の農家が大切に育ててきた農産物の中で、形や色の悪さから流通されない“ハネモノ”(規格外品)を無駄にすることなく“やさしくおいしい循環”をつくることで、様々な社会課題解決につなげるプロジェクト。農と福祉と食がつながり、今すでにあるものをいかしあうことで新たな価値を生み出す。沢山の「Mottainai」がみんなの喜びに変わる、新たな社会の仕組みをつくりたいとの思いから誕生した。また呼称を旬果甘味店ルコトへ変更と同時に、中央区上所に農産物加工の小さなキッチン「おいしい循環ラボ」が開設され、福祉事業所の利用者と一緒に作業したり、ワークショップなど、色々な人たちと一緒に活動できる場となっている。

未来に美しい自然環境を残すために食の分野できること

 東京のレストランや新潟の結婚式場で腕を磨いた佐藤さんが、四季折々の豊かな食材に恵まれた新潟の地に魅せられたのは、極自然なこと。

「料理人の駆け出しの頃は、グルメで一流の食を目指すべきだと考えていました。しかし、それだけではなく、地域の郷土料理や文化の伝承など、食は地域に根ざした料理とつながっているということに気づいたり、環境に配慮した農業を営む農家さんを応援し、その農家さんのものを使っていくうちに、本当に全てはつながっているなと感じようになり、未来に美しい自然環境を残すために食の分野でできることをやっていきたいと思うようになったのです」

 ルコトでは農家が大切に愛情込めて育てたハネモノを、ジャムや焼き菓子、ドライフルーツ、果物のペーストなど、様々なおいしいものに変えて新たな価値を生み出している。ハネモノは新潟市内の福祉事業所に運びこまれ、下ごしらえなどを福祉事業所の利用者が行い、それをルコトのスタッフが新たなおいしいものに変えていく。おいしいものになった商品は福祉事業所で組み立てられた箱や福祉事業所で作られた資材でラッピングする。そして、そのおいしいものを私たちが購入し、おいしくいただく。皆んなが笑顔になるように、まあるくつながっているのだ。

 ハネモノは、農家が流通しているものと同じ環境下で愛情たっぷりに育ててきたもの。だから無駄にしたくはない。ハネモノが出る量は年によって違う。一軒の農家で2・3割はハネモノが出ているそうだ。大規模農家の場合は何トンものハネモノが出るという。日本におけるフードロスは1日あたりご飯茶碗一杯分と言われているが、流通前のハネモノはフードロスに含まれていない。実際の食べられるのに捨てられてしまう食品の量はわかっていないのである。

 ハネモノの程度は様々だ。熟し具合や傷の有無、大きさもバラバラ。だからハネモノを扱う際は選別が大切になる。その年のその時季によっても味や状態が違う為、ハネモノが届いたら、まず味見をし、そのものの味がわかり個性がいかされるメニューを考える。

「もし自分が農家さんだったらと考えると、そのものの味を殺してしまうような使い方はしたくありません。できるだけ農家さんの名前をうたって、きちんとそのおいしさが伝わるようなつくり方を心がけています。農家さんだって自分のところの名前が書いてあると嬉しいと思うから」

少しの工夫と手助けや支えがあれば、色々なことがもっと楽になる

 子供の頃から体が弱く、入退院を繰り返していたという佐藤さん。色々な経験をする中で、「障害は特別なことではなく身近なこと、誰もが年をとっていくと不自由なところが増えて障害者になる、少しの工夫と手助けや支えがあれば、色々なことがもっと楽になるのにな」と思う場面が多くあったという。福祉事業所とのつながりは、2013年にメニュー開発の依頼を受けたことがきっかけだった。食に関わることは細分化すればするほど誰もが関われる。

「新潟市のアグリケアプログラムという、重度の障害のある方にも色々な体験をしてもらおうと、料理講師が施設に出向いて皆んなで作って食べるという取り組みがあるのですが、食べることは一番のご褒美なので、皆んな一生懸命になってやるんです。職員さん達も、この方はこんなこともできるんだと驚いていました」

福祉事業所の利用者と一緒に作業をしていると、触れるものに純粋に感動する利用者に、おいしいものをつくることは喜びの根源だと気づかされることもあるという。

 ハネモノを加工したものはルコト以外の飲食店でも利用されている。飲食店の多くは、仕込みや下処理に手間暇をかけられないことから、海外からの輸入品や県外産の手軽な加工品や既製品を使わざるをえない現状がある。ルコトの商品を利用している飲食店からは、地元のものが使えてありがたいと喜ばれているそうだ。

 佐藤さんはC’s kitchenを始める前に食の世界で男性と一緒に働いてきた。どうしても男性に比べ体力的に劣る為、同じように働こうと無理しすぎて病んだり、体調を崩した経験がある。また、女性は結婚や出産を機に食の仕事を離れてしまう人たちが多い。腕はあるのに仕事だけを優先できない女性たちが仕事をしつつスキルアップもしていけるように、ワークシェアリングを推奨し、働きやすい環境づくりにも力を入れている。

 福祉事業所に作業を依頼する際は、まず現場を見て、それぞれの施設と利用者の特性に合わせた作業手順やレシピの考案、指導などを行っている。農と福祉と食の連携は、加工の手間や人件費、運営していくまでの手間などがあり簡単ではない。それでも寸暇を惜しんでは生産者や福祉事業所へ通う佐藤さん。皆んなの困ったなが少しでも解決したらいいなとの想いが、佐藤さんの原動力となっている。

「自分だったら、自分がこうだったら良いなと思ってやっています。ただ、どんなに良い取り組みと言われても、利益が出ないと運営していけないので、お金がきちんと回って運営していくような仕組みにしていかなければならないと思っています。私が年老いてやめてしまっても、若い人たちがこの仕組みを続けていくことができる地盤を築いておかないと、続けていく人がいなくなってしまいますから」

 続けていくことの難しさはルコトだけでなく、農業も同じ。農家の高齢化が進んでいる上に自給率が低迷している日本で、立派な農産物をつくっている農家でさえも後継者に継がせず、自分の代で農業をやめてしまうところが多い。

「もっと農家が儲かる職業にしていかないと、農家がいなくなってしまいます。土やお日さまなど自然の恵みに触れ、四季に寄り添いながら働くことはすごく素敵な生き方だと思うのに、農業で暮らしていけないというのはおかしなことです」

 ルコトの取り組みはルコトだけでは限界がある。今後は組合をつくったり、飲食店同士がつながったり、色々なところと協力して足りないところを補いあっていく必要があると佐藤さんは考えている。未来に向けて、様々な社会課題を解決し良い循環をつくっていくために、皆んなでまあるくつながっていくことが大切だ。つながることで生まれるおいしい循環は、私たちも一役担っている。一人一人が暮らし方を含め、何を選択し、どのように地球環境にやさしいことをしていくかによって、未来は変わっていく。

「フードロスが話題の今、若者の意識は向いてきています。これから先、現在抱えている課題を解決しながらうまく循環する世の中になれば良いなと思います。それを若者たちにバトンタッチできる地盤をつくって渡せたら良いなと思っています」

旬果甘味店ルコト シュンカカンミテンルコト

新潟市東区松島3-1-3

営業時間:11:30〜17:30 定休日:月〜水曜(祝日の場合は営業)

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