ART アーティストと出会う

photo:Sawako Kanai


文 / KYAF 五十嵐奈穂子


 新潟市に、榎本浩子さんという美術家が滞在している。6月末まで「ゆいぽーと」という新潟市美術館の近くの施設で暮らしながら、作品制作をして発表する予定だ。

 写真の映像とドライフラワーなどからなるインスタレーションは、「受けとめきれない」と題した2019年の作品。写真からでさえ、胸に静かにキューっと切なさが感じられる。植物を使った作品作りを始めたのはこの頃。無気力で、いろんなことにやる気がでない日々が長く続いた時期に、植物を育てることはできるようになり、庭を見つめる時期が増え、少しずつ元気が出てきた経験からだそう。「カレンデュラ」という植物を育てて、ローションを手作りして使ってみたら、市販の化粧品が合わなくなり荒れていた肌がよくなったとか。「時間をかけて作ること自体が心にも作用してよくなったのかも」。榎本さんには植物を育てる過程も大切な創作活動の一つになっている。

 私も心を病んだ時期があったのと、植物が子供の頃から好きだったのとで、来潟前にプロフィールを知ってからとても気になっていた。「KYAF勝手にゆいぽーととかアーツファンズ」の名で、ゆいぽーとで滞在制作(いわゆるアーティストインレジデンス=AIR)をする作家さんを勝手に応援する活動をしていることもあり、楽しく交流させていただいている。

 この原稿を書いている4月中旬の榎本さんの新潟でのworkはというと…。「植物の思い出を教えてください。教えてくれた人へ、そのお返しに一緒に種まきをしましょう。私が苗を育てて贈ります」というプロセス1。「あなたの庭を見せてください。」というプロセス2。そして木枠に布を張り、キャンバスを作ったりしてらっしゃるゆいぽーと工房ギャラリーでのプロセス3。そして蒔いた種や群馬から連れてきたハーブなどの苗を育てていたりと、いくつかの物事が並行して進められている。

 友人の家の庭を一緒に観に行った日があった。「母が庭いじりがとにかく好きなんだけど、私は関心がなくてね。何の花かわからないな。お母さーん」と呼ばれて出てきたお母様は嬉しそうに花の名前を教えてくれた。友人から後日「普段は母とはほとんど話さないので、榎本さんのおかげで庭の話が聞けて、今さらだけど私も新鮮でした」とLINEが届いた。榎本さんとともに過ごすなかで、何かが私たちの中でゆっくりと育っている気がする。

 新潟での制作プランには「豊かな自然に恵まれた新潟の土地の庭や植物を通して日々の暮らしのなかの豊かさや個々が抱える小さな不安や悩みからケアとキュア、精神的、身体的な修復についてリサーチを行い、滞在中に採取した植物などを使いインスタレーションなどの制作を行う」とある。私たちは榎本さんによって静かにヒト種の植物採集、観察されているような気もする。どのような作品に仕上がるのか、ドキドキ楽しみだ。榎本さんは、滞在中誰でも気軽に見に来てほしい、とおっしゃる。アーティストと出会ってみては?

写真上:《受け止めきれない》2019年  photo:Shinya Kigure

写真下:《時間をかけて治る傷》2020年 photo:Satoshi Mori


榎本浩子 enomoto hiroko 

群馬県出身、在住。弱さと豊かさ、ケアとキュア、身近に関わりのあるひきこもりや心の病について模索しながら傷を修復するための制作と活動をしている。「群馬青年ビエンナーレ2015」大賞受賞。主な展覧会に「River to River 川のほとりのアートフェス」(前橋市、2021)、「The course of true love never did run smooth」(2019年、EUKARYOTE)、「ソウウレシ」(2019年、旧本間酒造)など。


YUI-PORT AIR Invitation Program 2022 Spring

榎本浩子滞在期間 2022年4月5日(火)〜2022年6月22日(水)

ゆいぽーと / 工房・ギャラリー

ゆいぽーと

新潟市芸術創造村・国際青少年センター 

新潟市中央区二葉町2-5932-7 TEL 025-201-7530

KYAF

勝手にゆいぽーととかアーツファンズ

https://www.facebook.com/katteniyuiportarkatten/

五十嵐奈穂子 090-4399-4566

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