memorandum '25 弥生
昨年の2月は気温が20度越えの日があったりして異常気象だなんて言ったりしていたけれど、今年は寒波到来が遅かったからか3月でもうっすらと春は感じるもののまだまだ寒く、でもこれが新潟の普通の3月なのかなと思ってみたり。毎年異常気象だなんだと言っているものだから、今までの3月がどんなだったかよく思い出せなくなってしまった。
我が家の梅の木は亡くなった母が植えたので実際に植えてから何年たったかよくわからない。おそらく6・7年は経っていると思う。母の味というと、私が思い出すのは天ぷら。母は天ぷらを揚げるのが上手だった。山菜の天ぷらやインゲンのかき揚げが特に好きだった。母の実家には竹林があり、実家から筍を掘ってきて筍ご飯や筍とニシンの煮物、若竹煮をよく作ってくれた。私はニシンの煮物が苦手で若竹煮が大好きだった。母が子供の頃によく作ってくれた笹団子や新潟の郷土料理ののっぺ、梅干しも忘れられない母の味の一つだ。母の味で渋い料理しか思いつかないのは、洋食は母よりも私の方が美味しいと思っているから。母に美味しかった料理の作り方を聞いても、いつも「適当」としか言われないため、作り方はわからない。母が作ってくれた味の記憶だけを頼りに自己流で作り続けている。
まだ母の味を再現したことがないのは梅干しと笹団子。梅干しは辛うじて母が漬けておいてくれたものが残っているのだけれど、もう少しで底を突きそう。昨年母が植えた梅の木の梅で梅干しを漬けようとしたのだが、梅の実が大きくなった頃に収穫できるか様子を見に行ったところ、カイガラムシが大量発生。良い状態の梅が少なかったので梅干し作りは断念した。害虫被害で梅の木自体が黒ずみ、木の中が虫食いで空洞化している箇所もあり、もう実すらならないかと思われたが、蕾が出てくれて安堵した。今年は蕾の頃から毎日パトロールをして、害虫を見つけるとすぐさま駆除(気持ちはカレル・チャペックのよう)。お陰でなんとか蕾が開花した。でも木の状態があまり良くないのか他所の梅の木の花よりも小さく儚く見える。今年は小ぶりでもいいので状態の良い実をつけて欲しい。まだまだ気は抜けない。
ミードとスープ
1・2月は全然運動せず、食べてばかりいたので自宅での晩酌は気が引けてできなかった。3月になると休日ジョギングをするようになったので自宅での晩酌を解禁した。まず最初に飲んだのは1月末か2月初めに新潟駅前の「長谷川屋」で買っておいた「ANTELOPE」のミード”Jumeaux(ジュモー)”。昨年購入して気に入って今年リピート買い。南区の「阿部農園」のルレクチェとカリンを使用したミードだ。購入時に今年は果実感が素晴らしと聞いていたのでとても楽しみにしていた。一口飲んだ瞬間、春の陽射しのもと白やピンクの花が咲き誇っている景色が浮かんだ。すっきりとした味わいで、食中酒としも楽しめる。二度目に味わったものは、今まで味わったことのないものを味わった時の感動ほど強い心象は残らないと言われているようだが、二度目にも関わらず初めて味わったかのような感動を覚えた。来年はどんなジュモーに出会えるか楽しみだ。
昨年、私は「letter from the field」として活動されている佐藤さゆりさんの実家である阿部農園へ取材で伺った。農園の広さが想像していた以上に広くて驚いた。こんなに広い土地で果樹やお米を自然に沿った方法で栽培しているとは、かなり手間隙が掛かっているのだろうと想像した。14代目のさゆりさんの弟、阿部健太郎さんは勉強家だ。何年か前に新聞で、フランスのワインの産地で温暖化により葡萄栽培とワイン作りに悪影響がでているという記事を読んだ。日本は大丈夫なのだろうかと危惧していた時に健太郎さんに尋ねたところ、一冊の本を紹介してくれた。その本とはジェイミー・グッド著『ワインの科学』(2014年改訂新版)である。この本を読んで、フランスより温暖な国でも盛んにワイン作りが行われているのだから対応策はあるということがわかったし、人の味覚は個人差があるという話はとても面白かった。世の中には、ある味が感知できない味覚盲症の人やある味が敏感に感じてしまう味覚過敏症の人がいる。私はコーヒーの場合、なぜかエチオピアだけは直ぐに味がわかるのだけれど、他の産地のコーヒーは(エチオピアほど)違いがわからない。きっと私は全く感じないわけではないけれど感知力が劣っている味があるのではないかと思った。ワインを語る際に評論家はワインを吟味した時の感じ方だけでなく、自分自身の生まれ育った文化、置かれている状況も含めて語るそうだ。★3つなんて聞くと絶対美味しいに決まっていると思ってしまうけれど、味覚は人それぞれ、生まれ育った文化や状況も人それぞれ。評論家の評価は参考程度に興味を持ったら自分自身で店に足を運び、自分ならどのように感じるかを楽しめばいい。私が食べたり飲んだりしたことを言葉で伝えようとする際、私自身に語彙力がなく、思ったことや感じたことを伝えるって難しいと常々感じているので、違う風に感じたらごめんなさいという言い訳でもある。
ジュモーと一緒に食したのは日本の食材で作ったガルピュール。最近仕事を終えて帰宅すると22時近くになっていることも少なくなく、簡単なものを作って食べる気力さえない。外食や出来合いの惣菜ばかりだと食費や健康面で気が引ける。同僚は外食や出来合いの惣菜が続いても気にしていないようだけれど、私は母がいつも栄養を気にして調理していたので、融通の効かなさは子供の頃からの食生活が影響しているのだと思う。毎日違う料理が食べたくて作り置きはしてこなかったけれど、そうも言ってられない。かといって貴重な休日を出勤日用の仕込みに充てたくない。わがままなんです、私。3月初めに新発田方面に用事があって、せっかく近くに来たのだからと「三角フラスコ」へ立ち寄った際、いつも多忙な店主の良緒さんに食生活について聞いてみた。良緒さんは大きな鍋で重ね煮を作って、調味料などで味の変化をつけながら飽きないように工夫していると教えてくれた。重ね煮、いいかもしれない。レシピを見たら、いつも作っているスープとそんなに大きな違いはなかった。水を加えるか否かの違いくらい。カットした野菜を鍋に入れて長時間火にかけておくだけで、野菜の旨みたっぷりのスープになる。ベースを作っておいて、日々調味料やスパイスなどで味の変化を楽しめばいいなんて最高だ。ガルピュールは料理家の長尾智子さんの本『ベジダイアアリー』で知った。かれこれ15年近く作り続けている。フランスの南西地方の郷土料理で、昔、農作業に出る前に作り、朝・昼・晩と煮続けて食べたスープだそう。春キャベツが出回ったおかけで少し安くなったので3月は2回ガスピュールを作った。日を追うごとに具材の味が馴染んでいき、食感も変わっていくから飽きることはない。しかし今後気温が上がるにつれて、スープじゃない料理が食べたくなるかもしれない。みなさん、忙しい日が続く時はどんな料理を作っているのでしょうか?
◼︎letter from the fieldについてはVOLUME 07の「My Favorite Things」およびcontentsから記事をご覧いただけます。
コーヒードリッパー
写真のコヒードリッパーは民藝好きな「三角フラスコ」の良緒さんが燕市の「穂生窯(ホナリガマ)」に依頼して作ってもらった特注品。薪窯を築き、女性2人で作陶されているのだそう。青系と茶系の二色から選べ、一つ一つ微妙に色の混じり合う加減が違うので、いつも直感でパパッと決めてしまう私でも少し悩んでしまった。それ程どれもステキなのです。三角フラスコのコーヒードリッパーでコーヒーを淹れるのであれば、コーヒー豆もやっぱり三角フラスコの豆で淹れたい。いつも三角フラスコが新潟市内のイベントに出店する時にコーヒー豆を買っていたので、イベント用に焙煎された豆を選びがちだった。今回初めて私の好きなエチオピアを買った。三角フラスコには浅煎りと深煎り両方のエチオピアがあった。深煎りも気になったが、まずは浅煎りを飲んでみることにした。初めて飲む三角フラスコのエチオピアは優しい風味で後味すっきり、ホッとする美味しさだった。コーヒーと一緒にいただいたのは沼垂にある「mountain△grocery」のイチゴとカルダモンのマフィン。フレッシュな甘いイチゴとカルダモンのバランスが絶妙。三角フラスコのコーヒーがmountain△groceryのマフィンのために焙煎されたのではないかと思うくらい見事にマリアージュしていた。
◼︎三角フラスコについてはVOLUME 07の「COFFEE AND MUSIC」およびcontentsから記事をご覧いただけます。
◼︎mountain△groceryについてはVOLUME 04の「わたしのSmile Food。」およびcontents
から記事をご覧いただけます。
クラシック
三角フラスコのエチオピアを飲んだ時に思い浮かんだのが、上大川前通にある「ナッツ 山浦珈琲店 本店」である。同じ上大川前通の少し離れたところにもう1店舗上大川前通店がある。上大川前通店の方が人情横丁や今はなきイトーヨーカ堂前にあるので利用している人は多いが、私が好きなのは本店だ。店内に静かに流れるクラシック音楽、ステンドグラスやエンジ色のベロア素材の椅子のシート、カウンター後ろの棚に並ぶコーヒーカップもクラシック。コーヒーカップはマスターが一人一人の雰囲気に合わせて選んでくれる。喫茶店で飲むエチオピアは中煎りか深煎りが多いので、あまり豆の果実味を感じないことがよくあるが、ナッツ 山浦珈琲店 本店の豆は三角フラスコと同様に果実味を壊さないように焙煎されていて、尖ったところがない優しい味わい。チョコレートケーキは底にレーズンを敷いて焼き上げられており、ふんわりとした甘さ控えめの生クリームをたっぷりつけて食べる時の口福感は格別だ。マスターが一人でコーヒーを淹れたり接客をしてくれるのだけれど、所作がスマートでプロフェッショナル。ホテルでくつろいでいるかのようなとても居心地のいい店だ。
祝
3月31日で三角フラスコが10周年を迎えた。おめでとうございます!今年の3月は何かと祝い事が多い。新潟サバービアボーイの我が息子が3月に中学を卒業し、4月から高校生になる。幼児の頃から小学生になっても絵本や自然に一切興味を示さなかったのに、小学校高学年になるといきなり村上春樹やカフカを読み出し、横尾忠則や村上隆にハマり、横尾忠則の影響から細野晴臣に興味を持ち、細野晴臣周辺を聴いているうちに坂本慎太郎が好きになり、今現在はポストパンクと古着が好きだという息子。運動が大の苦手で、そのことをコンプレックスとも思っていないポジティブさ。私がソウルやファンクを薦めても全く興味を示さない。人から薦められたものには一切興味を示さない天の邪鬼な性格はすでに幼児期から形成されていたということに今になって気がついた。私は息子に対しこれまで何もしてあげられなかったけれど、良き友人や先生に恵まれてここまで成長してくれたのだと感謝の気持ちでいっぱいだ。高校受験合格と中学卒業の祝いをかねて古町にある「FOCACCIA e VINO TETTO」へ久しぶりに息子とランチしに行った。店主のミキさんのイタリア愛が溢れた店。私のお目当てはスカンピのパスタ。昨年TETTOで食べたスカンピが忘れられなくて、今年はスカンピコースを提供する日に行けなかったものだから、バル営業の日にパスタで提供すると知ってどうしても食べに行きたかったのだ。どの料理も美味しかったけれど、やっぱりスカンピの旨みと甘みが効いたトマトクリームソースのパスタは最強だ。息子も美味しいと喜んでくれてなによりだった。
◼︎FOCACCIA e VINO TETTOについてはVOLUME 04の「わたしのSmile Food。」およびcontentsから記事をご覧いただけます。
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