01. BOOK DAYS

パリへ行かないけど詳しくなりたい人のための「手帖」

 パリで活動した文学者や芸術家は多い。フィッシュ・オンにある彼らの作品集や関連書だけでもすぐに1コーナーつくれるだろう。それにしても、なぜ多くのアーティストたちがパリに引き寄せられたのかずっと不思議だった。そんな長年のモヤモヤを解消してくれたのが海野弘の『パリの手帖』。この本はいわゆるガイドブックではない。ガイドブックは現地に行ってこそ活きる本だが、この『パリの手帖』は違う。おそらく現地へもっていっても役には立たない、地図のひとつもついていない。もちろん名所へもたどり着けない。連れて行ってくれるのはパリという都市の過去。バルザックの小説によって「いきいきと、みえるように」描かれた一八三〇年代パリ、プルーストの『失われた時を求めて』の舞台となったベル・エポック(良き時代)、ヘミングウェイやフィッツジェラルドら「パリのアメリカ人」たちが無茶な馬鹿騒ぎを求めて駆け抜けた一九二〇年代〈ジャズ・エイジ〉。名だたる作家たちとパリとの関係性に古い海外文学好きならば喰いついてしまうはず。最終章「目覚めよパリ!『ポンヌフの恋人』」で著者は、セーヌ川を大事にしてこなかったパリの都市計画を嘆くのだが、新潟市民としては死につつあるセーヌ川の姿が昭和三十年代に埋められてしまった古町の堀と重なる。当時の生活環境向上のためとはいえ水面から都市を見るまなざしのひとつが失われてしまったことは悔やまれる。しかし「失われた時を求めて」も仕方がない。せめて在りし日は美しく語り、かろうじて残っているものは大切に守らなくてはね。幸い著者の愛する都市のアンダーワールド、猥雑でエネルギッシュな路地裏の魅力は古町ではまだまだ健在だ。そして『BLUE BIRD』というこの生まれたばかりの小冊子が、新潟に新しく生まれてくるものにささやかな光を照らしてくれることを願っている。


USED BOOKS FISH ON(フィッシュ・オン)

新潟市中央区沼垂東3丁目5−18 (沼垂テラス商店街)  ☎︎080-5172-1881 (担当:三原)

営業日時:金・土・日・祝 12時〜17時30分  (出張買取などで予告なく休む場合あり) 


text・photo :Yousuke Mihara(FISH ON)

0コメント

  • 1000 / 1000