NO BOOKSTORE, NO NIIGATA LIFE

 今の時代、音楽では若者を中心にサブスクリプション利用者が増加傾向にあるようですが、一方でアナログレコードを掘る人もじんわり増加中のようですね。本だって音楽と同じ。オンライン書店やサブスクリプションの利用者がじわじわと増加中。だったらアナログレコードを掘る人のように本だって「本を掘る」ってかっこよく使っても良いのではないでしょうか。

「〇〇書店へ本を掘りに行ってきたんだけど、名作がいっぱいあってさ」なんて会話がスタイルのある若者から聞こえたらなんだか嬉しい。

 皆さんは、最近まちの本屋さんへ遊びに行っていますか?本屋さんはワクワクするような楽しい場所なんです。どこのお店も個性があり、それぞれのお店で得意なジャンルがあります。心のベストテン第1位はこんな本だった!的な本に出会うべく、本を探しに、いえいえ、本を掘りに行ってみましょう。


01. 萬松堂 バンショウドウ

02. BOOKS f3 ブックス エフサン

03. 北書店 キタショテン



01.萬松堂 バンショウドウ

未来を想像しながら、丁寧に変化していく書店。


柾谷小路から古町通を白山神社方面へ入って直ぐの所に、主に新刊を扱う書店「萬松堂」がある。私は古町に買い物に来ると、萬松堂で雑誌や新刊を買って喫茶店でお茶をするパターンが多い。萬松堂は学生の頃から利用しているが、約150年の歴史があるとは知らなかった。「創業は江戸末期なんです。創業者の西村六平(にしむらろっぺい)が新発田の市島家の丁稚から暖簾分けし、島屋六平(しまやろっぺい)という屋号で万屋を営んでいたそうです。その後、萬松堂に変わったのですが、長い歴史の中、何回か大火があった為、資料がなくなってしまい、創業当時の詳しいことはわかっていません」と教えてくれた店長の中山さん。

 萬松堂は主に新刊を扱う書店だが、よくある書店とは違う個性のある書店だ。入口前にある平積み台には萬松堂が出版した絵本が陳列されている。「2018年3月に株式会社島屋六平という出版社を設立し、絵本を出版しました。古町は新潟一番の繁華街でしたが、今では衰退していく一方。本屋を取り巻く環境が変わってきたのはバブル崩壊後の1997年。2000年に米国からAmazonがやって来た時、まだ危機感はありませんでした。決定的なのはスマホの普及です。スマホで気軽に買い物ができるようになったり、雑誌が定額で読み放題になったことが大きいです。本屋には再販制度があり、仕入れて売れなければ返品できるのですが、運賃の高騰で返品費用もかさみ、また出版社も刷数が少なくなった為、注文通りに入荷しないようになりました。私達も、このまま何もしない訳にはいきません。地元に愛される本を作りたい、子供達に紙の手触りを感じてもらいたい、そして本を読んで好きになってもらい、読書家の大人になって萬松堂に戻ってきて欲しい、そんな思いから“ろっぺいブックス はじめてのえほん”を作りました。名前の通り、幼児が初めて手に取る絵本を手がけています。お客様と直に接してきた書店員の意見が沢山反映されており、親が時間がなくても時間が取れるようにサクッと読める長さ、子供でも手に取りやすい大きさ、気軽に買える価格になっています」。

 絵本作家のとりごえまりさんが“どうぶつえん だいすき”の絵を描いている。「編集プロダクションを通じて、とりごえまりさんに絵を描いて頂けることになりました。新潟には動物園がない為、動物園に行くとなると県外へ出なくてはいけません。だから動物園に行く前にこの絵本を通して動物に触れてもらえたら嬉しいですね」。

 以前、萬松堂の2階は専門書のフロアだったが、現在はバーゲンブックのフロアになっている。「規模の小さな書店は扱える専門書の数に限りがあります。ネットや大型書店の台頭の影響もあり、バーゲンブックのフロアに切り替えることにしました。バーゲンブックと言っても元はしっかりした作りの本です。何かのタイミングが合わずに売れず、一定期間在庫のままになっていた本を私達が買い取り、新たな価格設定でお客様の目にお届けしています。誰かの手に渡ったものではないので古本ではありません。流行は10年、20年で戻ってくる為、今読むと新鮮に感じられたり、再評価されている本もあり、好評頂いております」。

 萬松堂には昔からの常連客が多い。しかし、それに甘んじてはいない。「新しい客層を取り込みたいと思っています。今は変化の時。世の中の変化に柔軟に対応していかなければならない。私達はやっぱり本が好きなんです。本が好きという人を増やして行きたい。紙には良さもあり大切ですが、まず活字を読む良さを伝えていかなければと思っています。言葉や表現の美しさ、物語の楽しさを若い人達に伝えていきたいですね」と語ってくれた中山さん。変化の波に乗りつつも萬松堂らしさは失わず、真摯な姿勢で変革に取り組んでいる。だから萬松堂は街の人に長く愛されているのだろう。

萬松堂

新潟市中央区古町通6-958 ☎︎025-229-2221

平日10:00-19:30 日曜・祝日10:00-19:00 定休日なし(元日は休み)



02.BOOKS f3 ブックス エフサン

まちの本屋さんで、本物の写真に触れる。


 明石通から栗の木バイパスを東区方面に渡って直ぐ左手に、写真集を中心とした新刊・古書を扱う本屋「BOOKS f3」がある。著名な写真家の作品だけでなく、私の知らない写真家の作品にも出会えるお店だ。定期的に写真展も開催されており、作家の作品に触れることができるだけでなく、作家が在廊している時は直に話をすることもできる。

 店名「BOOKS f3」の“f3”はカメラの絞りの数値からきているそうだ。「実際にはf3という数値はないのですが、あったら良いなと思う数値で、本屋もなくてもいいけどあったらちょっといいよねと思い、f3にしました」と話すのは店主の小倉さん。

 BOOKS f3には老若男女さまざまな人が訪れ、小倉さんとお客様がカウンター越しに楽しそうにお話されていたり、時には若いお客様が小倉さんに相談している姿をみることもある。私が二十歳くらいの頃は写真集を扱うお店がほとんど無く、若い頃にもっと作家の作品に触れる機会があれば、もっと写真が好きになり、写真に携わる仕事に就いていたのではないかと、あり得ない想像をしてしまう。それくらい、訪れるたびに何かしら刺激を受けるお店だ。

 小倉さんはお店を構えるにあたり、ギャラリースペースを必ず設けたかったそうだ。ただ並べているだけでは本が売れない時代ということもあるが、しっかりと作家の作品を紹介したくて展示をやる。「展示が見られる、作家に会える、作品集が買える、そんなお店にしたいと思いました。美術館は少し敷居が高いけど、ふらっと立ち寄って作品が見られるお店。沼垂テラスに来たついでに気軽に立ち寄って欲しいです」。

 BOOKS f3ではスナップから風景、デザイン、ファッションなど様々な作品集を扱っている。「まず自分が見て良いと思ったものや、誰かに贈りたいと思ったものを中心に扱っています。お客様の好みは様々なので、できるだけ自分の興味の幅を拡げ、色々な方の琴線に触れるように心がけています」と小倉さん。

 私は写真というと構えてしまう。「そんなに難しく考えず、自分の好きを大切にして欲しいです。自由に見て、気に入ったら買ってくれれば良いんです。全体を通して何かいいな好きかもでも良いですし、他はそうでもないけど、この1枚がめちゃくちゃ好きというのでも良いんです」。小倉さんの話を聞いて、写真も音楽と一緒だと思った。CDを買う時のように、気軽に良いと思ったら買って、好きなように楽しめば良いんだと。

 写真展は小倉さんが好きな作家に声をかけて開催しているそうだ。「うちは本屋なので、基本的には作品集がある方や展示に合わせて販売できるものがある方にお願いすることが多いです」。取材時に小林茂太さんの「オーロラ」の作品展を開催していた(2019年10/10〜11/25)。小林茂太さんもお店のオープン時から顔を出してくれていたので、作品集を作ったら持ってきてくださいとお願いしていたそう。昨今、まちの本屋さんが自分の店のレーベルから本を出したりしているが、作家の作品をみずから編集して作品集にし、自分のお店から出すことは勇気がいると小倉さんは言う。「時々、本を作りたいという方のダミー本を見せてもらうことがあります。それであれこれと好き勝手に言うときはありますが、自分自身に本を1冊作り上げるための専門知識や技術がなく、実際力になれることが少ないんです。プロフェッショナルな仕事をしている方々を知っているので、出来ない自分をいつももどかしく感じます。その分、様々な作品集や作品展を直接見てもらえるので、それを肥やしにしていって欲しいです」。

 作る側の想いがわかる分だけ、いかにして多くの人に作品の魅力を伝えられるかと日々奮闘している小倉さん。正直で熱くてまっすぐ、自分の意見をはっきり言う小倉さんに、作家だけでなくお客様も信頼を寄せている。

BOOKS f3

新潟市中央区沼垂東2−1−17 ☎︎025-288-5375 13:00-20:00 火・水曜日定休



03.北書店 キタショテン

期待をうらぎらない北書店。


 市役所前にある「北書店」は、欲しい本や読んでみたくなる本が見つかる頼もしいお店。ある日、北書店を訪れると、大型店にも取り扱いのなかった画家ジョージア・オキーフの"ジョージア・オキーフとふたつの家 ゴーストランチとアビキュー"が置いてあった。見つけた瞬間、心が踊った。10年以上前に雑誌でインテリアの本として紹介されていたのだが、なぜかずっと心に残っていた。家でじっくり読むとインテリアだけでなくオキーフが描いた絵、ゴーストランチやアビキューの自然、オキーフの豊かな感性に魅了された。時間に追われた暮らしをしている私にとって、ナチュラルに生きる指針となる本になった。北書店ではエッセイや小説を買うことが多い。カテゴリー毎や作家毎に並べてあるので読みたいと思う本が割と早く見つかる。入口脇の棚には新潟に関する本が沢山並ぶ。北書店ではベストセラーばかりでなく、私たちの暮らしに寄り添ってくれる本が充実している。

 私にとって北書店と言えば、編集者の岡本仁さんの本充実度No.1のお店である。岡本仁さん関連の本が欲しい時は北書店に来れば必ず見つかる。2018年に鹿児島を旅した際、岡本仁さんの「ぼくの鹿児島案内。」や「みんなの鹿児島案内。」が活躍した。鹿児島は新潟から遠い存在だからか、鹿児島案内シリーズの本は、新潟市内の書店ではほとんど見かけなかった。だから全て北書店で揃えた。北書店では不定期にトークショーや展示、ライブなどのイベントを行っている。2019年10月18日に岡本仁さんのトークショーがあった。新刊「今日の買い物 新装版」の内容を中心に、店主の佐藤さんのカラッとして豪快な司会で楽しくトークが展開。お二人の話の中で印象に残っているのは「買い物は店へのエール」という言葉。この本の帯にも書いてある言葉だ。買い物を投票と考えて店へのエールのつもりで何かを手に入れる。この言葉に深く頷いた。楽しく続けていけることだと思ったから。そして、一人が二人、二人が三人と連鎖していったら街に人が集まり活気が出てくるのではないだろうか、そう思ったのだ。

 佐藤さんは、今はなき柾谷小路で約190年も続いた老舗書店、北光社で店長をされていた。現在はネット通販や大型店の台頭などにより、まちの本屋さんを取り巻く環境は変わってきているが、今の状況を佐藤さんはどのように見ているのだろうか。

「ネット通販や大型店の台頭なんてのはそれこそ20年近く前から常に問題としてあったわけだけど、僕はその辺のことをあまり深刻には受け止めないまま、気が付いたら24年も本屋をやっていました。2007年の春に紀伊国屋書店のリニューアルオープンとジュンク堂の新潟初出店が重なって周りからは心配されたけれど、古町の北光社はまた違うタイプの店だから、大型店と一緒に同じ町で棲み分けができればいいんじゃないかと気軽に構えていました。本屋はそういう思考が十分に可能な業種というか」。

 2010年の1月31日に北光社は閉店。その2ヶ月半後に、佐藤さんは北書店を開店する。

「当時『電子書籍元年』なんて言われてね。その流れに対してもなんかボンヤリ眺めてたんだよなあ。ネット通販とか電子書籍よりも気になるのは、目線がスマホに支配されていることかな。目の前に並ぶリアルな棚よりも、SNSで誰かが紹介していた1冊だけを求める人が多い。これは非常にもったいないね。時代だなという気もするけれど、よくよく考えると昔は昔で、例えば健康本のコーナーにあれだけの本を並べても、みのもんたがテレビで紹介した本しか興味がないなんてお客さんはざらだったんだから、いつの時代も結局は同じなんだろうな。そんなこんな、日々愚痴をいいつつも楽しくてやめられない商売ということで。朝、入荷した箱を開けた時に、いい本があると一気にテンション上がるのは何年経っても変わらないですからね」と佐藤さんは語ってくれた。

 佐藤さんとお話をしていると、佐藤さんは本については殆ど語らないけれど、本を書いた人、作った人、本を扱っている人を心から応援しているのが伝わってくる。北書店には佐藤さんに選ばれた良い本が沢山置いてある。だから、そんな沢山の本の中から自分自身の宝物となる本を探しにまた訪れたくなるのだ。

北書店

新潟市中央区医学町通2-10-1ダイアパレス医学町101 ☎︎025-201-7466

10:00-20:00(土・日・祝日12:00-20:00) 第1・第3日曜日定休


全てtext・photo:Miyako Shimizu

0コメント

  • 1000 / 1000