幸福と口福。

 夏は旬の採れたて野菜が沢山出まわります。野菜そのものが美味しいので、家では凝った料理はほとんどしません。シンプルに切るだけ、茹でるだけ、グリルするだけ、揚げるだけ、ソテーするだけ。そこに美味しい塩とオリーブオイル、レモンや酢があれば、それで十分。あっ、美味しいお出汁に醤油、味噌も欲しい。生姜や大葉、みょうがなどの薬味類やクミンなどのスパイスもあればなお良し。とにかく美味しい食材があればシンプルな調理方法で良いのです。忙しい日でも料理をしようと気になります。今年になって急に、夏は楽ちんだなぁと思ったのでした。


 先日、健康診断の帰りに、普段は仕事で行くことができない小針郵便局へ「まきぐち農園」の枝豆を買いに行ってきました。毎年楽しみにしているまきぐち農園の枝豆。シーズンに1回は枝豆でフムスを作ったり、スパイス炒めにして食べたりしますが、豆自体が美味しいまきぐち農園の枝豆はシンプルに茹でて塩を振って食べるのが一番。豆そのものの香りや甘みをダイレクトに味わうことができます。冷えたビールと一緒に枝豆をいただく。あぁー、美味しい。あぁー、口福。


 今夏は我が家では家庭菜園でトマトが沢山収穫できたので、毎日冷やしたトマトに、岩塩、オリーブオイル、酢をふって食していました。先にトマトのサラダを作って冷蔵庫で冷やしておきます。すると調味料と馴染んだトマトのジュースがにじみ出て、これまた美味しいのです。

 シンプルに素材そのものを味わいつくす、と言えばイタリア料理。そう言えば、以前私が「Focaccia e vino TETTO」を取材させていただいた時、店主の美希さんが「イタリア料理は素材の使い方がとてもシンプルなので美味しい素材そのものの味を活かすように調理しています」と仰っていました。

 先日、イタリアの自然が美しいトスカーナを舞台にした映画「Toscana(トスカーナ)」を観ました。主人公であるデンマークの高級レストランで腕を振るうシェフのテオが父の遺産を売却しようとトスカーナにやってきて、一人の女性と出会い、生き方を見つめ直していくという話。何気に目がいってしまうのが映画に登場する料理。カットしたトマトと生ハム、パルミジャーノ・レッジャーノがたっぷりと盛られただけのプレート。パンに添えられているのは見るからに美味しさがぎゅっと詰まっていそうなオリーブオイル。デンマークではアートのような一皿をつくっていたテオは、父が残したレシピでリゾットを作ってみるものの、レシピになかった花をリゾットに添えてしまいます。何の飾り気もない料理に物足りなさを感じているようでした。しかしエンディングでは、父とのわだかまりが消え、父の愛したトスカーナの魅力に気づいたのでしょう、テオのつくる料理は、余計な装飾などない、美味しい食材を引き立たせるようなシンプルな盛り付けに変わっていたのでした。ウィリアム・ジェームスの言葉「心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる」って本当だなと思いました。

 「Toscana」を観た翌日にTETTOへランチを食べに行きました。ランチで頼んだワインが偶然にもトスカーナのワイン。そしてパスタは豚バラの白ワイン煮をソースにしたパスタ。テオが父のレシピでつくったリゾットのライスをパスタに変えてつくったら、こんな味になるのではないかと想像しながら美味しくいただきました。白ワインで柔らかく煮込まれた豚バラの旨味を吸ったパスタにたっぷりのパルミジャーノが絡まって口福このうえない。気分はまさにトスカーナ。ちょっとした偶然が、より食事を楽しく美味しいものにしてくれました。


 8月になると毎年原爆投下や終戦のことを考えます。毎年様々なメディアで報道しているから考えざるをえないとも言えますし、報道してくれるから忘れずに考え続けることができるとも言えます。

 今年はロシアのウクライナ侵攻がありました。現在、世界のいくつかの地域で武力闘争が起きていることは知っていましたが、私は平和ボケしていて、どこか他人事のように酷いなとは思うけれども恐怖は感じていませんでした。それが、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、突然平和な暮らしは奪われるのだと恐怖心を抱くようになりました。ロシアがウクライナ侵攻を始めてすぐにチェルノブイリ原発を占拠しました。現在ロシアはサボリージャ原発を攻撃しています。4月にロシアは北方領土で軍事演習を開始しました。北朝鮮は弾道ミサイル発射実験を繰り返しています。中国は日本の排他的経済水域に弾道ミサイルを落下させたり、中国船が排他的経済水域に違法侵入していると連日様々な報道がされています。さすがに平和ボケしている私でさえも恐怖心は募ります。新潟には柏崎刈羽原発があります。柏崎刈羽原発が再稼働した場合、日本を侵攻しようとする国はまず首都東京の電源を断ち切ろうと柏崎刈羽原発を攻撃するのではないかと考えてしまい心配です。

 BLUE BIRD VOLUME 05が完成した6月。「LUCA VINTAGE MARKET」へ冊子を届けに上がった時に、ウクライナから仕入れたヴィンテージブラウスを購入しました。私が購入したブラウスはウクライナのものではなくルーマニアのものでしたが、商品自体が素敵だったことと、大変な状況の中、ウクライナから日本の地方都市、新潟にやってきたということ、また売上の一部をウクライナの方々へ寄付するというので、少しでも役に立てれば嬉しいと思い購入に至りました。私がロシアのウクライナ侵攻を身近な恐怖として感じるようになったのは、オーナーの一人である佐野さんからウクライナからブラウスを仕入れる経緯を聞いた時にロシアのウクライナ侵攻について佐野さんが仰った「怖いですよね」という一言でした。正直にいうと佐野さんから「怖いですよね」と言われた時に、まだ私は怖いよりも酷いとの思いが強くて、怖いという意識があまりありませんでした。佐野さんの一言により日本が置かれている状況を考えるようになったのです。

 私が小学生の頃は、たしか夏の最高気温が暑い日で28℃くらいでした。夜は窓を開けておけば海側の窓から涼しい風が入ってきて寝苦しいということはありませんでした。それが今では38℃を超える日が毎年出ていて、日本でも40℃を超える地域が出ています。新潟では8月3日からの大雨で県北地域は土砂災害や床下浸水などの被害に見舞われました。被害にあわれた皆様には心よりお見舞い申し上げます。気温の上昇や局所的な豪雨による水害が年々増加していることなど、地球環境問の変化を身をもって感じる機会が増えました。

 ロシアがチェルノブイリを占拠した3日後にドイツはエネルギー政策を大転換しました。ドイツのショルツ首相は「責任ある、先を見据えたエネルギー政策は経済や環境のみならず、安全保障のためにも決定的に重要であることが明らかになった」と語っています。物事を考える上で、”責任ある、先を見据えた”というに共感を覚えます。

 1970年に公開されたソフィア・ローレン主演のウクライナが舞台の映画「ひまわり」。第二次世界大戦によって引き裂けられた男女に悲恋が描かれています。「シネ・ウインド」で定期的に上映されている「ひまわり」は今年も7月2日から2週間上映されていました。

 「パンとワインと三弥」では、私はボルシチにクロワッサン、ワインの3点を頼むことが多いです。三弥のボルシチが好きなのです。ボルシチはロシア料理と思われている方も多いと思いますが、ウクライナが発祥の地と言われています。ロシアで愛されよく食されているボルシチ。以前、三弥を取材させていただいた時に、オーナーの佐藤さんに三弥のボルシチは佐藤さんがロシアへ旅した時に出合って感動した味を三弥風に再現していると教えていただきました。

 美しい自然は平等に誰をも受け入れてくれます。美味しい食べ物も平等に誰をも口福にしてくれます。みんなが安心して暮らせる世の中になることを祈るばかりです。


■まきぐち農園についてはVOLUME 04の「わたしのSmile Food。」およびcontentsから記事をご覧いただけます。

■Focaccia e vino TETTOについてはVOLUME 04の「わたしのSmile Food。」およびcontentsから記事をご覧いただけます。

■LUCA VINTAGE MARKETについてはVOLUME 05の「MY FAVORITE THINGSが見つかる店。」およびcontentsから記事をご覧いただけます。

■パンとワインと三弥についてはVOLUME 04の「つながる、つづく。」およびcontentsから記事をご覧いただけます。

■シネ・ウインドについてはVOLUME 02 & 03の「ようこそCinecittàへ。」およびcontentsから記事をご覧いただけます。

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