火星でのコミュニティ。

 18年前の2004年、私は万代の商業施設内のセレクトショップで働いていました。確かちょうどその頃、ZOZOTOWNが話題になっていて、ZOZOTOWNに出店し初めてネット販売を始めた年でもありました。ZOZOTOWNの売り上げは好調で、店舗の売り上げにネットの売り上げが加わり、ネット販売をやって良かったと誰もが思っていました。後に店舗の売り上げが落ちるなんて誰が予想したでしょう。当時はほとんどの人がネットで買い物はするけれど店舗にだってお客は買いにきてくれると思っていました。ところが現実は違いました。ネットでの売り上げは増えましたが、店舗での売り上げは減っていき、状況は思わしくないというのが現状です。

 ネットは便利です。地方に住むものとしては、今までは地方で手に入らなかった商品がいつでもどこからでも買えるようになったのですから。しかも商品の選択肢が増えたため、よりお得な商品を選んで買うことができるようになりました。

 ネットで様々な情報が手に入り選択肢が増えたためか、ファッションに関してはコレクション発表後、今年はこれが流行ると言われていたものでも大流行を生み出すことはなくなりました。商業施設に入っているような大手セレクトショップは別だと思いますが、まちの個人経営の店では、流行は意識するものの、流行りだからという理由で商品を扱ってはいません。少なくとも長く続いている店は流行りだからという理由で商品は扱っていません。”流行りだから扱う”では店の経営が成り立たなくなるからです。また、店で取り扱いたいブランドがあっても、県内に1店舗しか卸してもらえない、半径何㎞以内に扱っている店があれば卸してもらえない等の制約もあるそうです。

 VOLUME 05のファッション特集の時に店を回った際、いくつかの店から「コミュニティを大切にしている」との声を聞きました。バイヤーがセレクトしたブランドや商品には思入れがあり、商品を買いに店に足を運んでくれるお客を大切にしたいとの思いがあるからでしょう。だから古町では、店のスタッフとお客が楽しそうに会話を楽しんでいる光景をよく見かけます。

 現在はネット社会、情報化社会と言われていますが、私はネットとは少し距離を置いています。店や人の情報はInstagramで十分。Twitterはあまり利用していません。フォローしている人のリツィートや、いいねを押されたフォロワーのツイートがタイムラインに流れて来て、知りたい情報がなかなか見られないことがあるからです。Instagramで得られない情報は気になったらその都度ネットで検索して情報を得ています。それで特に不自由はしていません。

 8月22日に北書店で『喫茶店のディスクール』というイベントがありました。北書店の佐藤さんと京都の誠光社の堀部篤史さん、同じく京都のオオヤコーヒー焙煎所のオオヤミノルさんによる「誰が本屋を潰すのか」と題したトークイベントです。私の主な情報源はInstagramですが、北書店の情報発信源はTwitterです。私の家ではローカル情報が少ない朝日新聞を購読しており、北書店が閉店し違う場所で再開する予定であるとの情報も、NIIGATA SUBURBIAに住む13才ボーイから新潟日報に載っていたよと教えてもらい知りました。そんな私がどうやってイベントの情報を知ったかというと、8月20日にdAb COOFFEE STOREで開催のGOOD SHOT COFFEEのポップアップストアを見に行った時にチラシを見つけたからです。チラシに気づかなかったら私はイベントに参加していなかったでしょう。現に堀部さんやオオヤさんが以前にも北書店でイベントをやったことがあるなんて知らなかったのですから。

 イベントに参加しようと思ったきっかけはお題に興味を持ったからです。誰が本屋を潰すのか。本屋に限らず、音楽だって同じことが言えます。かつて新潟市中心部には大手CDショップが3店舗ありましたが、サブスクの台頭で現在は郊外に1店舗しかありません。先にあげたアパレルショップだって苦戦を強いられています。喫茶店だって昔に比べかなり少なくなったといいます。

 三人のトークを聞いていて、堀部さんとオオヤさんは既にお題に対する答えがみえているのではないかと思いました。これからはネット社会の拡大だけでなく、人口の減少にも対処していかなければなりません。幼少期から青年期の間に本屋に慣れ親しんだ経験のある人がいればまだしも、今後、本は電子書籍で読むかネットでしか買ったことがない人が増加し続けた場合、本屋に関心を寄せる人は減少の一途をたどり、かなりの数の本屋がまちから消えてしまうのではないかと危惧しています。2024年度から小中学校でデジタル教科書が一部導入開始となるそうですが、全てがデジタル教科書になったとしたら、本離れが加速しそうです。

 本屋といえば図書館と同様に会話が少ない静かな場所、静かな店内で静かに会計担当がレジに立ち、陳列担当が本棚の本の並び替えを行っている光景が目に浮かびます。本屋では迷惑行為をしている人以外にお客に声をかけることは滅多にないというイメージを持っていました。しかし、全国的に知られている誠光社でさえ、店内でスマートフォンで検索している人がいれば声をかけて探している本を聞き出しているそうです。規模の小さな本屋は特に、お客を待っているだけの昔のやり方では時代についていけないため、アパレルの店と同じように、お客とコミュニケーションをとることによりニーズを聞き出して売上につなげていくことが重要になり、また、本屋が店をかまえる地域のコミュニティや、本屋に通ってくれる人たちで形成される店のコミュニティを大切にしていくことが重要になっていくのだと思いました。

 トークの最後の質問タイムで、来場者から「どんな店がいい店だと思うか」との質問が出ました。佐藤さんは「賑わっている店」と答えましたが、オオヤさんは「僕は違うな」と仰っていました。私は”いい店”とは人によって基準が違うと思っています。人によって趣味嗜好が違いますし、TPOや気分によっても店に求めるものは違います。だから、まちには様々な店が存在するのです。店の経営者は自分がやりたいことをやればいいと思います。ただし、お客は店を選びます。TPOや気分だけでなく、(滅多にありませんが)店に足を運んだ際に期待を裏切られてがっかりさせられた場合は次に足を運ぶことは当分ないかもしれません。変わりゆく時代の中で店を続けていくことは大変だと思います。だからこそ、BLUE BIRDでは長くまちの人から愛されて、まちの定番となっていく店を紹介していきたいと思っているのです。

 そういえば、トークの途中で、オオヤさんや堀部さんが「週末だけやっているカフェとか営業時間が短い店とかあるけれど、そういうのはやめた方がいい。ちゃんと店をやるんだったら営業し続けるべきだ」という話をされていました。最初は経営者に店をやるんだったら本気でやりなさいと言いたいのかなと思っていたのですが、どうやらそれだけではないようです。堀部さんの著書『火星の生活』で堀部さんはこう語っています。

「喫茶店に求めることはただひとつ。ずっとそこにあるだけだ。繰り返し訪れるには、その店がいつも自分を待ってくれていなければならない。週末だけしか営業していなかったり、極端に営業時間が短かったり、数年で店をたたんでしまったり、カウンターの中に立つ人がすぐに替わってしまったり。そんな店とは縁がなかったと思うようにしている。訪れる方が店に合わせるわけじゃないから、店の方が同じようにずっと待っていてくれていなければ足を運ぶ機会を逃してしまう。店主だって繰り返し顔を合わせない限り、どんな人なのかわかりっこない。」

この言葉は喫茶店以外にも言えると思います。いつでも店にお客を迎え入れる体制を取り続けるには、時代が移り変わる中、同じスタイルでマイナーチェンジを繰り返しながらあり続ける必要がある。それがどんなに難しいことかを店の経営者でもあり老舗が多い京都のまちで長く暮らす堀部さんは身をもって実感しているのだと思います。だからこそ、堀部さんの言葉には説得力があり、重みを感じます。

 佐藤さんが次に新たな土地で店を再開する際は、佐藤さんの目指す店の理念を大切にしながら存在し続けてくれることを願っています。


【余談】オオヤコーヒー焙煎所のコーヒーを初めて飲んだのですが、とても美味しかったです。きっと鮮度の良い豆を丁寧に焙煎し、美味しいうちに袋に詰めて新潟に運んでくれたのでしょう。トークの時の、オオヤさんの細かいのだけれども筋の通った話ぶりから、日々、こだわりと信念を持って仕事をされているのが伝わってきます。そのオオヤさんのDNAをちゃんと一緒に働いている人たちも引き継いでいるのだと、コーヒーを飲んで感じました。


■北書店についてはVOLUME 02の「NO BOOKSTORE , NO NIIGATA LIFE」かcontentsから記事をご覧いただけます。

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